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連作「わがオデッセーから」


雪の青――わがオデッセーから1



街衢に白い牙が立つ
絶え間ない幻の空のしたたりのなかで
(春のように)
雪が溶けている
光は
はげしく肯定された闇の真の意味
そのきさらぎの

われわれは航海に出る
坂のむこう
黄金に沸く駅前商店街まで

羊は迷って
腸となる
その透明な肉を曲がりくねってたどる
歩く人
われわれは
冬の栄耀を浴び
つめたいよろこびにふるえて裂ける一本の木
この坂下の
五本の路が出合う地点は
影を映さぬ火皿のようだ
着火する煙草
しきりに翔る鳥
宇宙はたしかにどこかで一度
死んだことがある
水を抱いて

永遠の疑問符を浮かべたまま
八百屋の前を行き過ぎる
われわれは
ひびきに満ちる星辰のしたの旅人である
幽かに朽ちている腕時計
駅前アーケードから甘く流れてくる地上の音楽
露台に載せられた果実の内部の
暗黒のうちにみひらく蜜の眼が
一瞬の風景のうえに輝く太陽を接写する
やってくる時はいつも懐かしい
白い鉤裂きの路を曲がり
さらに曲がる
昼はいま
桃のように匂う雪
巨きな青の世界に入り
しぶきをあげて車が走り去る信号を渡ると
喫茶店「2人の珈琲人」が近づいてきた



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