1. 今回旅行のあらまし

 6年前になるだろうか初めてツェルマットへのスキー旅行に参加した時、現地の言葉の効用を感じ、大昔少しかじったドイツ語を再度勉強しようと決心。一週間に一度ではあるが会話教室に通い始めた。もうそろそろ頭の硬くなり始める歳で、右から左に素通りすることが多いが、この習慣は今も続けている。それからもスキーツアー旅行には何回か参加したが、面倒がないものの何か飽き足りなさを感じ始めていた。

旅行ルート図

 昨年ツアー旅行に観光を兼ねた個人旅行を付け加えることを思いつき、始めて実行したが、今年もコルチナ(北イタリア)へのツアー旅行から現地で一行と別れ、オーストリア/チロルへの個人旅行に出発した。コルチナからタクシーでDobbiaco、列車でブレンナー峠を越えキッツビューエルへ、3泊後インスブルックへ向かった。途中Jenbachで下車し、Zillertalの奥Mayrhofenを訪れた。インスブルックは3泊、オリンピックコースのあるAxsamer Lizmで1日スキーを、あとの1日は昨年見残した観光名所、有名なクリスタルグラスメーカー、スワロフスキー社のテーマパーク"スワロフスキー クリスタル ワールド"、アンブロス城、および3つの博物館を見物し、インスブルック空港からアムステルダム経由で帰国した。

セラロンダ

 今回ツアー旅行にドロミテ渓谷を選んだ理由は、何といってもその景観の見事さである。スキーヤーの中には山に関心のある人も多いと思うが、あの岩山の見事さを写真で見て前々から一度は行きたいと考えていた地域であった。実際想像に違わない、いやそれ以上の見事さであった。もちろんその圧巻はスキー3日目に体験した"セラロンダ"セラ山群巡りとでも訳そうか、セラ山群のまわりをほぼ一日がかり、スキーで一周する訳であるが、刻々と変わる山容と光のショーには圧倒させられた。天気も最高で、空の青、雪の白さと森の暗い緑のコントラストがまぶしいほどだった。

トファーナ、ワールドカップ女子滑降コース

 その他見事な岩山の間を滑るTofanaのワールドカップ女子滑降コースは美しく、さすがに滑りごたえがあった。オーストリア国境に近いPlan de Coronesスキー場も面白かった。森林限界を越えた広々とした頂上から何本ものコースが放射状に延び、最長は7kmにもおよぶねじれた段々が続くテクニカルなコースで、インコースぎりぎりにノンストップで飛ばす気分は最高だった。 全般に雪は少なく下の方は土が出ていたり、滑れないコースもあったが、さすがに標高2,000m近辺から上は雪質も良かった。一人旅の部分、キッツビューエル、インスブルックのスキー場巡りはおそらくそれ程なじみのない所であり、的確な表現をする文才もなく、いたずらに長くなり興味を削ぐのではないかと思うので省略するが、キッツビューエルは西のサン・アントンに並ぶ、チロル洲の一大スキー場で、初のオリンピック三冠王トニー・ザイラーを生んだスキー場である。街は中世からの鉱山町。特に旧市街は歴史を感じさせる落ち着いた、たたずまいが印象に残った。インスブルックはオリンピックを二度行ったことのある多くのスキー場を有するほかに、ハプスブルグ家の歴史的文化遺産を遺すウイーン、ザルツブルグと並ぶ都市で、四季を問わず楽しめる観光スポットであることだけを紹介しておく。



2.一人旅のノウハウあれこれ


2-1.海外ホテルの予約

 見知らぬ初の海外スキー場で、効率よくスキーに専念するにはいろいろ面倒をみてくれるツアー旅行は確かに便利で有り難いものであるが、好きな時期、日程で、好きな所へ行くには制約を受ける。これを補うためにふと思い付いたのが、既成のツアー旅行に個人旅行を付け加えることであった。旅行会社に支払う追加料金は帰国便の日付をずらす変更手数料だけである。

 ホテルは現地中央駅や観光名所のそばに必ずある "i"マークの観光案内所、インフォーメイションに飛び込みで探す方法もあるが、現地の情報がない上、言葉の問題まで加わるとなると、実行する勇気がでない。ここで役立つのが東京都心にある政府観光局である。場所、電話は旅行案内書に出ている。国によって対応に差があるが、行きたい都市のパンフレットを要求すればくれる。地方の方なら郵送を依頼することも可能だ。このパンフレットにはホテルの設備、サービス内容、場所、電話、FAX番号などが載っている。巻末には予約のフォーマットなど付いていたりする。これを参考に自分なりの予約の文面を作っておく。面倒なようだが一遍作っておけば宛先など一部を手直しするだけで何度でも使えるし、これも旅の楽しみと思えば何でもない。まずリストからホテルを選びこちらの希望をまとめる。ヨーロッパとは時差もあり、先方の回答を吟味する時間も取れ、証拠にもなるので、やりとりはFAXが良い。(またはアドレスが分かればインターネット)FAXでの回答を依頼する文章を加えて置き、夜間FAXを受信状態にして寝る。ホテルから数日間の猶予付きで条件を知らせてくる。この期間内に同意の文書を送れば、ホテルから予約確認書が送られてくる。一般にこの2往復で予約が成立する。

2-2. 言葉の問題

 歴史的に異民族とのふれ合いの少なかった日本人が外国人と接すること自体一般に大きな壁である。青い目のガイジンと向き合っただけでおどおどしてしまい、実力の半分も力を発揮できないのが普通である。この壁を乗り越えるには日頃外人と接する機会を持つとよいが、それもままならない。せめて海外旅行の際、客であるという有利な立場を利用し、ホテル、レストラン、ショッピングで積極的に話をしてみよう。少々間違っていたって理解しようと努力してくれるだろうから、気兼ねなく話してみることだ。

 外国語と云うと英語だけでを考える向きがある。確かにホテル、インフォーメイション、交通機関等では英語だけでこと足りるかもしれないが、現地の誰とでもと直接心を通わせるにはなんといっても現地の言葉である。といってもそれほど高度な話がいきなりできる訳もなく、簡単な挨拶、旅行会話集に出てくるような日常会話、自分をやさしい言葉で率直に表現する事など、程度に応じて少しでもしゃべってみると相手の反応が 変わってくるのが分かる。 外人がたどたどしい日本語で話しかけてくると思わずニコッとしてしまうのと同様だ。多少間違っていてもそれは愛嬌というものだ。

 実は今回イタリア行きを決めてから"CD付イタリア語がおもしいほど身につく本"という題名にほだされて思わず買ってしまった一冊の本と小辞典で2ヶ月余、イタリア語を勉強した。文法的には多少似たところもあってドイツ語が助けになったがなにしろ2ヶ月の速成。挨拶に毛の生えた位のものだったがホテル、店、銀行、レストラン、タクシーなどで必ず2,3言はしゃべってみるように心掛けた。レストランで指差さずに注文ができたこと、値段をまけさせるのに成功したこと、タクシーで行く先を告げた時意外な顔をされた時はとても愉快だった。その運転手はドイツ語も話せ、駅に着くまで小一時間色々話ができた。

 スキー場で外国人と話す好機はリフトでいっしょになった時である。リフトに乗るとすぐ仲間同士の会話が始まる。何語であるか耳をそばだてるのであるが、ドイツ語であることを確信するまでに結構時間がかかる。時々知った単語が出てきたような気がするがなにせ仲間同士の会話であるから当然スピードは早いし、おそらくぞんざいにしゃべっているのだろう。だが心配することはない。こちらから話しかけると急にスピードが遅くなって、合わせてくれる。話を調子よく進めるためには語学力の弱いこちらのペースで続ける必要がある。自分の話の方向に誘導するため、「どちらからいらっしゃいました?」と切り出し、「日本人です。東京から来ました。」から始まって、自分の旅行の話、何処を廻ったとか、いつ何処へ行くなどと話始める。日本人は珍しいのか興味を持ってくれるようだ。質問も当然何処に泊まっているかだの、待ち構えている旅行の話になるから聞き易く話し易い。何せリフトの上なのでそれ程の時間ではなく、相手の出方を想定して2,3の引き出しを準備しておけば十分である。手品と同じで仕込みが肝心。この手でイタリア人を含む十組は越える人々と話した。

キッツビューエル旧市街

 キッツビューエルの奥のJochbergでたまたま地元のスキー教師とリフトでいっしょになりこの手でかなり長い間話したが、ドイツ語が上手い?とほめられ、思わず"Danke schon−ありがとう!"と口をついて出た。おまけにそこのスキー学校"ROTE TEUFEL"の名入りのバッヂをもらいよい記念になった。  ドイツ語、イタリア語は少し覚えれば意味は分からなくとも発音はできる。母国語とする人々からみれば妙なアクセント、イントネーションに聞こえているかもしれないが、とにかく通じるようである。これがレストランでの料理の注文の時威力を発揮する。インスブルックでは朝食だけ付く安いホテルに泊まったので(ホテル ガルニと云う)昼、夜はレストランなどで食べた。まず飲物を聞かれ、メニューをもらって注文することになる。前に触れたように中身は分からなくともメニューを読めばよいので注文はできる。主菜は多少料理の知識がある人なら見当が付くのもあるかもしれないが、つけ合わせに至ってはなじみがないので見当も付かない。しかもその量たるや半端ではなく、日本人の標準からすればその一皿で量的には十分である。飲物、スープ、主菜、デザートなどと注文していたらとても食べ切れたものではない。ただし注文はできても何が出てくるかは分からないので、好き嫌いの多い人にはつらいかもしれない。その点では何が出ても驚かなかった。言葉のことから少し脱線してしまったのでこの項はこの辺でやめておくが、ちなみにドイツ語でメニューはその店の定食を意味し、メニューのことはシュパイゼカルテと云う。

2-3. スキー旅行の持ち物

 特に移動がある個人旅行となると持ち物を極力減らすことを考えないと旅の楽しさが削がれる。靴はぴたり合うものを借りられることはまずないので持っていくのが常識である。しかし交換時期が来ているなら滞在中によく吟味して購入を考えても良い。昨年サン・ アントンでシリコーン発泡樹脂を圧入するインナー付きのものを購入したが、日本に帰って調べたら、免税分も入れると、ほぼ半値で買えたことが分かった。だがスキーとなると重くかさばるだけに迷う。たまたま借りたスキーが気に入って新しい発見をしたり、スキーをテストするように何回か取り替えて試してみるなんてこともできるし、滑走面の傷を気にせず滑るメリットもあるが、場所によってはあまりよいスキーは置いてなかったりする。私の知っている中ではツェルマットにはよいスキーがあった。

 せっかくのスキー旅行であるからスキー関係の持ち物はそう減らせないとなると、身の回りの品が対象になる。まず下着だが今新しい素材、中空糸、セラミックコーティング繊維など乾きも早く、保温性も高いので枚数を減らせる。また下着、シャツの類はスキー用、普段着、寝る時のものなどと分けずに共用を考えるのがコツだ。パンツを裏返して履けとは言わないが、極力数を減らすべきである。パジャマなど単機能のものはもってのほかだ。セーターはスキーと普段着兼用一枚で十分だ。  下着の数を減らす代わりに洗濯を考える。スキーを終え、ショッピングから帰ると夕食。その後は意外にひまなものだ。この時間を利用して洗濯をする。干し場はバスルームだがロープを結ぶ所に意外と苦労する。バスルームは必ずタイル張りなので片側だけ、吸盤が一個あるとロープを張る自由度がぐっと増す。大量に干さなければ強度も十分だ。ロープも他に転用の効く荷造り用のひもで十分だ。シャツの類は備え付けのハンガーで、小物干しだけ持参する。さらに重要なノウハウは洗濯物を絞ったあと、バスタオルに巻き込んで押し、水分を吸着することである。冬場は暖房により湿度が極端に低いので、濡れたタオルを含めて朝までに乾かなかった試しはない。加湿のためバスタブに湯を張って寝るという話もある位だからこれは一石二鳥といえる。

 移動中はポケットの多い背広を着用するようにしている。やや公式的な場所にも対応できるので便利だ。その必要がない場合ポケットのいっぱい付いたベストなどくつろげてよいと思うがまだ試したことはない。ひげ剃りは海外用100〜220V対応の物もあるが、大きくて重いので2,3週間なら乾電池式のものが小型、軽量でよい。カメラ用など含めて乾電池の類は現地では高く、探すのに苦労するので多めに持っていった方がよい。なおイタリア、オーストリア共電源は220Vであるが、日本の海外旅行用100〜220V対応機器を持って行く場合C型変換プラグが必要。列車で移動するならCOOKの時刻表は欠かせない。ただし日によって変わることがあるので重要な場合は確認した方がよい。

2-4. 通貨

 旅行にどのような形で金を持っていくかは気を使う所である。降り立った空港で換金するのは集中するため混雑することが多く、時間がかかり勧められない。 少なくともその日一日位の現地通貨は持っていくほうがよい。近頃は海外の銀行の方がレート良いので日本での換金は最小限にとどめるべきだが、到着が土、日になるとレートの良い銀行、郵便局の類は休みなので注意が必要だ。またスキー旅行の場合大抵リフト代が初日 に必要になる。かなりまと まった額なので現地で換金をする時間があるか予め知っておきたい。旅行書には大抵安全上トラベラーズチエツクの利用を勧めているが、直接使えるところは少なく、銀行での再度の換金が必要で二度手間だ。一方クレジットカードは今やホテルをはじめほとんどの店で使える。スキー旅行でカード限度額以上の買い物をすることはまず考えられないから、トラベラーズチェックの必要性はあまり感じない。少額の円とクレジットカードの組み合わせがよいのではないか?要は現金はあまり多量に持たないことだ。

クレジットカードといえば今回の旅行でこれが使える電話が空港、駅、観光名所のそばの公衆電話に結構見られた。使ってみたがコインでかける電話に較べ話しに集中でき、具合よかった。当然ホテルでかけるより安い。 

2-5. 町の様子を知る

 ホテルに着いてまず訪れたいのが中央駅、観光名所のそばに目立つ"i"のマーク、観光案内所−インフォルマティオンだ。町の地図、名所、博物館のパンフレットをもらったり、コンサート、ショーの情報を得たり、チケットを買ったりできる。観光都市には市内交通、名所、博物館の入場料がセットされたカードがある。インスブルックではインスブルックカードといい24H/48H/72Hがそれぞれ¥2,300〜3,700で買える。いちいち切符を買わずに済み、普通に使えば安上がりで観光には便利だ。またスキー場のある所では町中とスキー場、スキー場同士を結ぶスキーバスがあって大抵無料だ。それ程頻繁に出ている訳ではないので前もって時間、バス停の場所を確認しておくと安心だ。  ちなみに場所の尋ね方であるが、もらった地図を示し、現在いる場所と目的の場所を地図上で示してもらうのが言葉が不十分な場合質問が簡単でヒアリングが少なくてすみ確実な方法だ。方向音痴の人はつらいかもしれないが・・。バス停はHaltestelleと言い"H"のマークの看板があるが、意外と小さく、注意して見ないと発見がむずかしい。ちなみにスキーはSkiと書いてシーと発音する。

 もう一つ知りたいのが路面電車、バス、の経路だ。路線図がもらえるか、地図に書いてあればよいのだが、複雑に走っているのでまず書いてない。だが考えてみると東京のような大都会の観光都市はないし、我々が用のあるのは旧市街とその周辺くらいのものだから歩いたってたいしたことはない。歩いているうちにほかの発見もあるかもしれないし、そのこと自体楽しいと考えれば気楽なものだ。こちらに概略でも地図が入っていないと、的確な質問はできないし、よく分かる解答を期待する方が無理だ。たとえ言葉の問題がなくても・・・。もう一つの方法はこれと思う路線に乗って終点まで往復してみることだ。パズルを一つずつ解きほぐすように何日か滞在すればそれなりに町の様子が自然と分かってくるものだ。外国での一人旅にあせりは禁物だ。

2-6. その他諸々

 「海外に行ったら生水は絶対に飲むな」と昔から宣伝され堅く信じている人がひどく多いのにびっくりする。未開地の水道もないような所ならいざ知らず、Ca++,Mg++などのイオンが少々多いだけの話である。特に我々が行くスキー場のあるような所では都心の水よりよほどうまい。特異な体質で下痢をするなんて人がたまにはいるかもしれないが、あまりに心配されすぎている。少なくとも私は平気だ。ホテルに入るとまずアルコール類やミネラルウォーターをスーパーに買いに行くのがお決まりだが、ミネラルウォーターは向こうではガス入りの方が売れるのか、普通日本人が好むガスなしはむしろ少ない。ohne Kohlensaureがガスなしで、mit Kohlensaureが炭酸ガス入りだ。あまり大きな字では書いてない。PETボトル入りのものが最近増えているがこれに限りガス入り、ガスなしの判別方法を今回発見した。ガスは相当の圧力で入っているので段のないラベルがはってある所を押し較べて見るとガス入りは堅く、ガスなしは少しぶよぶよしている。でも誤ってガス入りを買ってしまっても別にどうということもない。慣れればすっきりしていてこれはこれで旨いのだ。新しい体験が旅の面白さでもある。ガスなしなら2リットル入りの大きなPETボトルを買っても飲みかけを押しつぶしてコンパクトにし、持ち運べることに気が付いた。

 ヨーロッパ全域でスキーリフトのパスの方式は統一されている。カードサイズのパスをゲートのスリットに差し込むとバーが一人分ずつ回転する方式である。多くのスキー場はロープウエイを含む一番下のリフトにのみこのゲートがあり、上部はフリーパスのことが多くそれ程面倒ではないが、コルチナのスキー場はリフト毎に必ずゲートがあり、少々面倒だった。伸びる紐の先端にカードを取り付けられる巻取器を売っている。(¥300位)スキーアクセス機能付きのswatchを購入し、窓口に出すとこの腕時計にデータを入れてくれ、ゲートのコイル部分に近づけると同様に動作する。よく海外のスキー場に行くなら持っていてもよいだろう。(¥6〜7,000位、ヨーロッパ以外に米大陸の多くのスキー場でも使えるとのこと。)

 国によって事情はかなり違うと思うが、少なくとも私の行ったスキー場のあるような所では治安が悪いとか危険を感じたなどという経験はなかった。ガイドさんは責任上トラブルがないよう大袈裟に云うが、日本だって近頃少々怪しくなっているではないか。ただでさえ慣れないことによるストレスを抱えている上に必要以上に神経質になる必要はない。そんなに人を疑っていては旅行自体が楽しくなくなってしまう。パスポートは身分証明であり、急に必要になることもあるので常に携行すること。現金は多量に持ち歩かないことだ。結局は個人の責任問題であって、日本国内でルーズ過ぎるだけの話だ。

 街に出ているときはトイレに困ることがある。Cafe、レストランに入る必要もない時は公衆トイレを使う。トイレはWC(ヴェーツェー)といい街角に案内板が出ていたりする。インスブルックの場合"大"は有料で、1シリング×5枚(¥50)入れると一回だけ開く鍵が付いている。駅(ロープウェイを含む)は無料だ。

 スキーシーズンが始まり一月も末になると冬物のバーゲンセールが始まる。Sonderangebot(特価提供)、Reduziert(割引)、−50%などという貼り紙がショーウインドウに目立つようになる。日本では見られないしゃれた衣類を見つけて買いたくなったり、土産にどうかな?トランクに入るかな?などと考えてしまう。土産といえば結構これが苦労でもあり、また旅の楽しみでもある。誰に、何を、何処で買うか頭を痛める。後戻りはできないからあれを買っておけばよかったと云うこともあるが、この位が丁度よいので結果的には買い過ぎるのが通例だ。永い目で見ると多少義理を欠いても自分のことを優先するのは当然のことだ。

 ヨーロッパでは域内で使用せず外へ持ち出す場合、購入時の取引税を出国時払い戻す制度がある。イタリアでは300,000リラ(約¥18,000)、オーストリアでは1,000シリング(約¥10,000)以上を同一店で購入し、"Tax free please!"といえば書類を発行してくれる。空港カウンターで搭乗手続き後税関で係官の署名捺印をもらい、これを空港内の金融機関で希望の現金に換える。10数%になるのでばかにならない。クレジットカードで購入した場合はその書類を店に返送すると、前者と違い手数料なしで請求金額から引いてもらえるところもある(オーストリアでは切手代は国内20グラムまで7シリング≒¥70)。ただし税関で買った物の提示を求められることがあるので、現物は手荷物として手元に持っている必要がある。荷物検査を終えロビーに入るとこの国ともお別れ、明日は日本だ。肩の荷もおりて急に寿司が喰いたくなる頃だ。 



3. あとがき

 この旅行は2000年1月28日から2月12日までの16日間。イタリア/コルチナダンペッツォとオーストリアチロル洲/キッツビューエル、インスブルックへのものである。前半はフエロートラベル主催のスキーツアー、後半は自身で計画、手配したものだ。このような形式の旅行は今回で2回目であり、決して豊富な経験とは云いがたいが後半の個人旅行の体験を基に個人旅行のノウハウをまとめてみた。なにせたいした語学力もないので聞き違いによる事実の誤りがあれば容赦願いたい。

イメージ トファーナを望むレストランで

 考えてみると一人旅を始めてからインスブルック空港を飛び立つまで一人の例外を除いて日本人には会わなかった。その人とはキッツビューエルのハーネンカムバーンでいっしょになり、外人と思いこちらから話しかけたら「顔つきがそう見えないかもしれないが日本人だ。」と告げられた。母がドイツ人で東京目黒在住とのことだった。「スキー旅行のためにドイツ語を習っている。」と話したら、「珍しい動機ですね。」と不思議そうな顔をされた。ドイツ語に対する彼特別の、文字通り母国語という思い入れを垣間見たように感じた。一人旅で日本語をしゃべったのはこの時だけで、東洋人の顔付きは記憶する限りすべて中国系であった。これだけでも前半との違いが大きかったことに気付く。スキーに専念できた前半と、一種の緊張感を伴う反面、旅の楽しさがダイレクトに伝わる後半の、それぞれ特色のある二つの旅が一度に楽しめ大成功だった。
 といって失敗がなかったわけではない。言葉に困ることもあったのは当然のことで始めから覚悟していたが、インスブルックであわや野宿の事態に陥った時はさすがにあわてた。そのホテルは夜間無人で、ホテルの入り口は施錠されるが部屋の鍵で開けられるとの説明はチェックインの時されて知っていた。夜、翌日のスキーバスのバス停を確認しておこうと思い立ち、もちろん部屋の鍵はしっかり持って近くへ出掛けた。帰って来て鍵を開けようとしたが、鍵は回るのだが開かない。この時ばかりはこんな薄着で野宿では風邪は間違いないと最悪の事態が頭をかすめた。しかしすぐ気を取り直して、近くにいた人に助けを求めた。その人に立ち会ってもらって再度挑戦し、何とか成功した。単に鍵を回しつつknobを押せば良かったのだ。後で考えるとほんの五分位のものだったがひどく長いように感じた。しかしそれから一週間も経たないのに"喉元過ぎれば何とやら"で、既によい思い出になってしまっている。

 このスタイルの旅行は当分止められそうにない。ますます完成度を高めて、より楽しい旅を目指したいものだ。
(文中あまり知られてない地名は正確を期すため現地名で示した。)

2000年2月  田中 あきひろ