解説
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組曲「動物の謝肉祭」
音楽によっては、精神を昂揚したり、心に楽しみをあたえたりするものもあるし、
敬虐な気持ちや情熱的な気持ち、あるいはまた夢みるような気分や、
意気ようようとした気分にさせるものもあります。
しかしいくつかの曲は、聴く人をただ楽しませるために作られています。
この「動物の謝肉祭」は、そういった音楽の一つで、
魅力的で技巧にすぐれたフランスの大作曲家、サン・サーンスによって作曲されました。
この音楽は、簡単にいえば動物園についての奇妙なファンタジーで、
楽しさと悪戯でいっぱいです。サン・サーンスは、自分の友人たちを楽しませるために、
この曲を作曲しましたが、それと同時に、音楽を学ぶ学生たちに、
いつもの真面目で骨の折れる曲のかわりに、楽しみながら演奏できる曲を、
あたえてあげようというもくろみも持っていたのです。そこで私たちは、
そういうことなら、ひとつ若い人たちを呼んできて一緒に演奏しようではないかと考え、
そうすることに決めたわけです。豊かな才能をもつ7人の若い人びとに、
私たちと一緒にこの動物たちの騒ぎに加わってくれるように頼みました。
この曲の主なソリストは、2人のピアニストによるチームで、
大変たくさんの場面を受け持っています。

さて演奏を始めましょう。まず2人のピアニストが弦楽合奏に加わって、
ライオン見物の前奏曲が始まります。とかく動物園にいくと、
まずライオン見物から始まるようですね。なにしろライオンは百獣の王だから、
サン・サーンスは「帝王行進曲」を書きました。
これは2台のピアノと弦楽合奏だけで演奏され、
トランペット風のファンファーレによるすさまじい胞嘩で終わります。

つぎは、2ヵ所を続けて訪れます。まずめんどりとおんどりの群れです。
その鳴き声はすぐわかりますね。このとり小屋の音楽を作るために、
クラリネット奏者が弦楽器群に加わります。
この動物はフランス語でエミオーヌ、英語でヘミオナスと呼ばれていますが、
チベットあたりではギガタイとかコンとかグアーとか呼ばれるそうです。
まあ何と呼ぶかはともかくとして、足の速いことでとくに有名なラバなのです。
ふたりのピアニストの20本の指が、信じられないほどの速さで鍵盤の上をかけめぐって、
あたかもラバが駆けめぐっているように聞こえます。
それでは、まずにわとりたちを、つぎに野生のラバを聴いて下さい。

つぎの2つの訪問先で、サン・サーンスはひそかに冗談音楽をはじめます。
皆さんが十分に理解できるように、ちょっとその秘密をといておきましょう。
はじめに作曲者は海ガメとカメを描いていますが、
こういった動きの鈍い動物をからかう最上の方法として、
考えられる音楽のなかでもっとも速い音楽を使うことにしたのです。
そこで、サン:サーンスは、オッフェンバックのオペラ「天国と地獄」から、
あの活発なカン・カンの音楽を借りてきたのです。
皆さんは、この有名な音楽は知っていますね。さてサン・サーンスはこれを使い、
速度を落として、ぼんやりとしたのろのろ動きにしてしまって、
海ガメの鈍重な動きをあらわしたのです。つぎの曲は象の紹介です。
サン・サーンスはここでもカメと同じ種類のトリックをしかけていますよ。
彼はもっとも軽やかで妖精の動きを思わせる2つのメロディを、
なんと重厚なコントラバスで演奏させるのです。
ひとつは、ベルリオーズの「妖精の踊り」からとった、このデリケートなメロディです。
それともう一つは、メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」の軽いスケルツォです。
全く象にうってつけではありませんか?
まあとにかく私達のコントラバスの演奏を聞いて下さい。
ずいぶんデリケートで、可愛い象ですね。

今度はカンガルーの部屋へとんでいきましょう。ふたたび2人のピアニストが主役です。
さて次は水族館へ行きましょう。
ここでは水は、2台のピアノによる、
ショパン風なスタイルの技巧的な流れによって描写されます。
水のなかを泳ぎまわる魚は、弦楽合奏とフルートのやわらかなメロディで描かれています。
そして小さなベルやグロッケンシュピールによって、時々水のしずくがとび散ります。
本来サン・サーンスはこの部分をハーモニカのために書いているのです。
ハーモニカといっても現在の口で吹くものではなくて、グラス・ハーモニカです。
これは19世紀に大へん人気のあった楽器で、いくつものグラスに色々な分量の水を入れ、
それによって違った音を出させる仕組みのものです。
皆さんも、食事の時にやった事があるでしょう。私もいつもやっては、母に叱られました。
とにかく、この古風な楽器がまともな音楽の世界から消えてしまったので、
水滴の小さな音は、グロッケンシュピールが代わって演奏しているわけです。
そろそろ魚を訪ねる用意ができたようですね。

小鳥の家では、思い浮かべられる種類の小鳥たちが、
あちらへまたこちらへと飛びまわっていますよ。

さて今度は、サン・サーンスは「ピアニスト」と呼ばれる、
まことに奇妙な動物に目を向けました。これは、
音階やら練習曲やらの勉強に苦しめられている、気の毒なピアノを学ぶ学生にとっては、
ちょっと気になる風刺画ですね。
でも、かつてピアノのレッスンでしぼられた経験のある人なら、
この動物に同情するだろうと、私は信じていますよ。

つぎは化石見物に行きましょう。
つまり有史以前の恐竜とかそういった動物たちの骸骨です。
ここでサン・サーンスは6つの曲から引用していますが、
そのなかに彼白身の「死の舞踏」も含まれています。
この曲が、骸骨についてのものであることは、皆さんも知っているでしょうね。
きっと知っていますよ。ほら、この有名なメロディですよ。
いまシロフォンで演奏されましたが、
年より古びた骨を描写するにはうってつけの楽器ですね。
ところで、こんなフランスの民謡も聞こえますね。この名高い民謡から、
サン・サーンスは「ジャック兄弟」のようなカノン(ラウンド)を作曲しましたが、
ただ第2声はメロディをひっくり返しているのです。
すぐその後に続いて、
2台のピアノが別のフランス民謡のメロディに基づいたカノンを弾きます。
これがそのカノンです。
このカノンにかぶせて、クラリネットがよく知られた民謡のメロディを演奏します。
もちろん皆さんは「月の光」は知っていますね。
まだまだ、色んな曲からとられていますよ。クラリネットは、
その当時流行した「セリアヘ行く」という古風なフランスの曲を演奏します。
そして、ロッシー二のオペラ「セビリャの理髪師」の一節で、この部分は終わるのです。
なぜこういった曲を特に選んだのでしょう。
もちろんすべて過ぎ去った時代に流行ったものだからです。
名高い音楽の化石というわけです。
そして、ここでそれらの骸骨の踊りを繰り広げているのです。

いよいよ私たちは、この「動物の謝肉祭」のなかで一番有名なところにやってきました。
白鳥です。この愛らしいメロディを知らない人はいません。
本来はチェロの独奏として書かれていますが、今日はこともあろうに、
コントラバスで演奏したものを聴いてもらおうと思うのです。
この楽器はさきほど象を描写したときに使った重い無器用な楽器ですね。
でも、これはちょっと違ったコントラバスです。歌うコントラバスなんです。
皆さんは、2台のピアノが作りだす氷の上をすべる白鳥の、
これほど優雅な姿をこれまで聴いたことがないでしょう。

とうとう動物の見物も、これが最後になりました。
今まで見てきた動物たちが一緒にカン・カンを踊ってくれるという、
素晴しいフィナーレです。
皆さんが注意深く聴いていると、まず初めにでてきた年とったライオンに気づくでしょう。
それからチベットからやってきた野生のラバ、めんどりとおんどり、カンガルー、
そして最後にあの「耳の長い人物」の高笑いが6回聞えるのです。
それは人がよくいう「ヒーホー、マヌケなロバが最後に笑いやがった」、
とでも言うように。