埋伏智歯切削抜歯用バーについて | ||||
初谷 宏一(東京都開業) | ||||
従来、骨性の水平埋伏歯の抜歯というものは多くの歯科医から敬遠されていたものでした。 「抜けなかったらどうしよう」、「だいたい不採算部門だから」とか、「時間がかかりすぎてやってられない」と いったマイナスイメージが強く、大学病院へ紹介する、大学から週一回専門の先生に来てもらう、或いは ただ断るといった情けないような声が多く聞かれる今日この頃です。 私は若い頃、東京大学付属病院の口腔外科に在籍していた関係で、多くの先生方から埋伏歯の抜歯 を依頼されてこれに出来るだけ応じてきました。熱心な先生方の中には私の抜歯手術を見学して、その 内に自分でも同じ様に出来る人が増えてきましたが、この事を私の至上の喜びとしておりました。しかしな がら増速コントラや分割バーのみではやはり時間がかかるケースもあり、なんとかもう少し誰にでももっと 早く埋伏歯が摘出(抜歯)できる方法はないものかと考え、今回の開発につながったわけです。 骨性の完全水平埋伏歯をうまく抜くには種々の要因が必要であります。 @なによりも術者の心構えが必要で、歯科医がビビっていては話になりません。その上で患者さんに手術 を充分に理解してもらい協力する姿勢を作り出すことが大切です。 A次にキセノンランプ等の周囲とはっきりコントラストのつく照明が必要です。 Bそして血液、冷却水等を吸引する各種の吸引装置が完備している必要があります。これは最低3種類 の口径のものが必要と考えられます。これらの装置を備えることで、吸引できる汚物は総て排除されま すから、術後の経過が良好となります。 これがそろった上で、今回私が開発したダイヤモンドのラウンドバーと増速コントラがあればあっという間に埋伏智歯は摘出できます。 術式 X線写真上で埋伏歯の位置を確認した上で、粘膜を切開剥離して骨を露出させ、第2大臼歯の遠心側 3o程の位置で骨にガイドの穴を開けます。大体の位置を確認した上で歯頸部あたりを目安に骨を最小 限削除して智歯を露出させ、下顎管との関係を見ながら出来るだけ歯牙のみを大きく削除します。 コツとしてはまず見えている所は全て削る位の気構えで削っていき、初心者は時々φ3o位の吸引器で術野を吸引して無駄に骨を削っていないかを確認します。視野が充分に確保される為、正確に歯だけを 削っている間は下顎管を傷つける心配が全くありません。また抵抗の少ない優れた切削感により、歯と骨 の違いを敏感に感じ取ることが出来るので、骨の切削を最小限に留めることが出来ます。 通常2分程で歯頸部部分は削除されて歯冠の一部と歯根のみが残ります。ここで充分切削屑を吸引し てから歯冠部をヘーベルでおこして摘出します。歯根はやはり吸引器で骨と歯の境目を確認してヘーベ ルを入れて摘出します。この為のヘーベルも開発しました。 通常ここまで5〜6分で手術が終了しますから、患者さんにもストレスを与えず術者も楽に治療が出来る わけです。なお、若い先生でもこの時少なくとも拡大ルーペは使われた方が手術がスムーズに完了すると 思います。このダイヤモンド ラウンドバーを用いた方法は、固体の歯を切削して液体(粉体)にして摘出するという発想から出たもので、切削効率の良いバーの出現によって初めて可能となった方法であります。又この術式では全く腕力を必要としないので、女性やご年配の歯科医に最適の方式と思われます。 なお、少量の麻酔薬で充分な効果のあがる浸麻法も開発しました。(通常1.0t位を使用) |
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