転移・遭遇・戦闘





独逸第一特務艦隊は謎の光源に飲み込まれ、光の氾濫の中にあった。

暴力的な光が艦橋に満ち艦橋要員は堪らず目を閉じた。

しかし強烈な光は瞼では完全に防げず、閉じた目の中でも昼間の明るさを持っていた。

永遠に続くと思われた光の氾濫は唐突に終わりを告げた。

「・・・っつ!ぜ、全員無事か?」

「は、はい。なんとか無事です・・・・・」

「くっ・・・。失明した者は居ないか?」

「なんとか・・・大丈夫です・・・」

「え、ええ・・・見えています。」

うめき声とともに返事が返ってくる。

艦橋の中で負傷した者は居ないようであった。

「副長、甲板を確認してきてくれ。外に・・・」

「艦長!」

副長を甲板に向かわせようとした時、ウイングで倒れている見張り員の元に駆け寄った副艦長 チェスター・ランドルトが叫んだ。

「どうした!?」

「前方に艦影が!」

確かに艦前方に大型艦が見える。

それも複数で等間隔に並びこちらに艦首を向けている。

「航海長!僚艦は無事か!?」

「は、はい!依然変わらず両舷後方四百に位置しています!」

「僚艦に通信。"乗員の確認が取れ次第報告せよ"」

「ハッ!」

「副長、甲板を急いで見てきてくれ。」

「はい!」

「各科、クルーの状態を報告せよ。」

ランドルトを甲板に向かわせた傍ら、艦橋から伝声管で艦各部署と連絡を取っている。

「第一主砲、負傷者無し。」

「機関室、全員無事です!」

「士官室、何人か倒れましたが復帰しています。」

甲板以外の艦各部から応答があり全員の無事が確認された。

あとは副長が戻ってくるのを待つだけだが・・・

(どこの艦かわからんがおとなしくしていてくれよ。)

その希望は脆くも崩れ去った。

「未確認艦から発光信号!」

倒れていた見張り員は既に職務に復帰し、自分の役割をこなしていた。

"ブソウカイジョシ コウフクセヨ シタガワヌバアイ ゲキチンスル"

「どこの艦なんだ?」

「・・・艦長」

「?」

「『ビスマルク』です。」

「なんだと?」

「信号を発してきた艦は『ビスマルク』級です・・・」

「ばかな!『ティルピッツ』が何故ここに!?」

身動きの取れない「ティルピッツ」がここに居ることよりも、護衛すべき艦に警告を受けた事の方が衝撃だった。

しかしクラウスは気づいては居なかった。

見張りが悲鳴に近い報告をするまでは。

「わかりません!『ビスマルク』級は二隻います!!」

『ビスマルク』は既に撃沈されており『ビスマルク』級は『ティルピッツ』のみである。

三番艦が存在するという話は聞いた事は無かった。

沈んだ艦が目の前で自艦に向かって警告を発していること自体信じがたかった。

が、現に第一特務艦隊は多数の独逸艦艇と対峙しており危機的状況下にあるのは事実であった。

と、そのときランドルトが艦橋に飛び込んできた。

「艦長!甲板確認終わりました!」

「負傷者はいたか?」

「何人か倒れていましたが叩き起こしました。それよりあの艦隊は!?」

「・・・とりあえず僚艦の返事待ちだ。」

「艦長、僚艦より返信。乗員は無事なようです。」

艦橋に安堵の空気が流れたがその瞬間砲声が響き渡った。

「不明艦発砲!」

砲声のしたしばらくあと『フレグランス』の千m程手前に水柱が立った。

「・・・マズイな。」

「は?」

「向こうも独逸艦。暗号も何も全部同じ。こっちの通信内容ばれたな。」

「じゃあ・・・」

「そうだ。こっちが行動を起こす前に押さえ込もうとするな。」

その証拠に軽巡洋艦二、駆逐艦五が包囲するべく接近してきた。

「どうします?」

「手旗で僚艦に信号。こちらの合図で面舵一斉回頭、針路二−七−〇。西北西に針路を取れ。同時に周囲に弾幕を張れ。なお通信の周波数帯を変更する。全艦戦闘配置。」

「ハッ!」

「総員戦闘配置に付け!」

「砲術長、徹甲弾装填。信管を外せ。軽巡の艦首水線下に照準。砲はまだ動かすなよ。」

もはや戦闘は避けられそうになかった。

それを本能的に悟ったクラウスは相手が独逸海軍と判断した上で戦闘配置に就かせた。

前部の十五cm連装砲が測距を始め、後部砲も同じく測距を始めた。

「高角砲、射撃用意。」

艦橋に居た全員が驚いた顔をした。

「あれは間違いなく独逸艦だ。なら乗組員も独逸人だろう。出来るならば沈めたくはないし、こちらも黙って沈む気はない。高角砲なら一撃で沈むようなことは無いだろう。まあ任せろ。」

不明艦隊は砲をこちらに向けている。

明らかに敵対意思を持って近づいてきているにもかかわらずクラウスは双方の被害を極力抑えようとしている。

「目標艦距離一万。」

重巡が白波を蹴立て接近してくる。

「距離八千。」

おそらくこちらの針路を塞ぎ駆逐艦を接舷させる腹積もりだろう。

「七千。」

軽巡、駆逐艦も速度を上げ接近してくる。

「六千。」

軽巡は後方遮断に回る筈だ。

「五千。」

(さて・・・。逃げるか。)

「距離四千を切ります!」

「砲術長、砲撃開始!機関始動!面舵一杯!」

「一番砲撃て!」

号令一下素早く砲塔を旋回させ十五cm砲が火を吹き先頭の軽巡洋艦の艦首に至近弾となって着弾する。

二発発射された内一発が艦首に命中し艦首を食い破り艦底から抜け出た。

被弾した軽巡洋艦はやや艦首を沈ませて停止した。

こちらの発砲を見て後方の軽巡、駆逐艦が応射してきた。

が、『フレグランス』以下駆逐艦三隻は発砲と同時に機関全速で転舵し、その常識離れした加速により全弾が命中することなく海中に没した。

高圧機関を搭載した『フレグランス』級、『バルクホルン』級ならではである。

加速性もさることながら巡航速力三十ノット、最高速力も三十七ノットと高速である。

「巡洋艦の足を止めろ!駆逐艦は放っておけ!」

後部の十五cm砲が狙いを軽巡に狙いをつけるが、こちらの意図を悟ったのか転舵を繰り返しながら接近してくる。

こちらも砲撃をかわすため針路変更を全速で行っている。

しかし三ヶ月間の完熟訓練を行い艦を習熟した乗員は難なく仕事をこなした。

軽巡が面舵を切った瞬間に発砲。

軽巡の艦首左舷側に二発とも命中し先に被弾した軽巡と同じく停船した。

「駆逐艦は適当に追い払え。できるかぎり沈めないようにな。」

「了解。」

「被弾させた艦はどうだ?」

すかさず見張り員が報告する。

「最初に被弾した軽巡は持ちこたえています。二隻目は・・・・退艦命令が出たようです。」

自分でも双眼鏡で確認する。みれば艦の周りにボートが浮かび乗員が海に飛び込んでいる。

既に艦橋基部まで海面が迫っており沈むのは時間の問題だろう。

測距を妨害するために八十八ミリ高角砲は榴弾を放っていたが二隻の軽巡洋艦が無力化されたことで新たな目標、依然追撃してくる駆逐艦の中で最も突出している艦にその砲身が向けられた。

その不幸な艦は『Z31』と言った。



独逸海軍所属 駆逐艦『Z31』

「『ルイジ・カドルナ』、『アルベルト・ディ・ジュッサーノ』航行不能!『ジュッサーノ』には退艦命令が出ています!」

その艦橋で被弾した僚艦に向かって侮蔑の視線を向ける者がいた。

「フン!イタ公の無能が!駆逐艦の砲撃なんぞでやられおって!」

『Z31』艦長 ホラント・オズボーン。

彼は自分より強力な艦を使っているイタリア人を快く思ってはいなかった。

ゲルマン人種が他民族種より劣ってはならない、ましてや他民族種がゲルマン人種を出し抜くなどとは神への冒涜だとすら彼は考えていた。

だが彼は蔑んだイタリア人達と同じ運命を辿るとは思いもしなかった。

「距離六千五百!離されます!」

見張り員が『Z31』と『フレグランス』の距離を叫んだ。

四千近くまで詰めていた距離は既に七千に達しようとしていた。

「雷撃距離七千で調定しろ。」

拿捕に失敗したとき撃沈することは許可されているので迷うことなく彼はそれを実行に移した。



「取り舵!右舷雷撃戦用意!」

「敵艦発砲!」

彼が命令を発し終えたのと『フレグランス』が発砲したのは同時だった。

『Z31』が舵を切るより早く高初速で放たれた八十八ミリ弾が金切り音を響かせ飛来した。

高初速の砲弾が『Z31』の右舷側の装甲を削り落としていく。

「応急処置いそげ!さっさと反撃しろ!」

その命令が為されることは無かった。

飛来した八十八ミリ弾の一発が二基装備されている魚雷発射管の内、後部の第二発射管に命中し装填されていた魚雷を誘爆させたからである。

その衝撃で第一発射管も発射管を旋回させる旋回盤が歪んでしまい発射も出来なくなってしまった。

『Z31』は艦後部が浸水し沈没は避けられそうになかった。

艦長は総員退艦命令を出し全員が退艦を終えたのを確認し自らも海に飛び込んだ。

そして、

「クッ!化け物が!」

と悪態をつきイタリア人と同じ感情を言葉と共に吐き出した。





「追撃艦沈黙。」

見れば沈んだのは『ジュッサーノ』と接近しすぎた『Z31』のみで他の艦は推進器や艦首をやられ航行不能に陥っていた。

2隻の戦艦も味方の船が近すぎるのか今だ撃ってはこなかった。

「仕方なし・・・か」

クラウスがウイングに出て後方を見ながらつぶやく。

「同胞の艦を撃ったとお思いですか?」

声のしたほうを見るとランドルトがこちらに出てくる所だった。

「あれは間違いなく『ビスマルク』級だった。他の艦も見慣れた友軍艦だしな。彼らからみれば我々は反逆者だろうな。」

「私はそうは思いません。」

クラウスが怪訝な顔をランドルトに向ける。

「何故だ?」

「『ビスマルク』の撃沈を複数のUボートが視認していますし飛行艇もその海域に飛来し生存者の救助を行いました。沈没は間違いありません。」

「だが三番艦という可能性もあるぞ。」

「一、二ヶ月で戦艦は建造できません。それ以前に起工していたならカナリス提督が知っていたはずです。」

ランドルトは開戦前、カナリス提督の有能な部下だった。

そのころから何かと目をかけてもらい、『フレグランス』の副長にと海軍司令部に推薦したのも彼である。

副長に昇進した後も提督は暇を見つけては艦隊の方に足を運び作戦に必要な情報を自ら教えてくれた。

(そういえば諜報のプロだったがなぜか気前よく機密を教えてくれたな。)

乗艦『フレグランス』の初陣となったツェルベルス作戦のときも事前にカナリス提督は英本国艦隊から空母が離脱したことを掴み独断でクラウスにブレスト戦隊の救援を打診した。

そしてブレスト戦隊は『フレグランス』の強力な防空火力(この時の兵装は、八十八ミリ連装高角砲八基。三十七ミリ機関砲三十六門を装備し接触したカタリナ、ソードフィッシュは全機撃墜された。)に守られ無事独逸本国に帰還した。

防諜をSD(保安諜報部)が仕切っているとはいえ提督の肩書きを持つ人間が1戦艦の存在を知らないのはありえない。

「結局どういうことなんだ?」

「わかりません・・・が、一つ確実なのは。」

「・・・あの謎の光か。」

「おそらく・・・。」

「・・・・・とりあえず議論は中断だな。」

「?・・・!そうですね。」

両者がお互いに納得しそれに合わせたかのように鈍い砲音が聞こえた。

「後方に発砲炎!」

「面舵!」

艦隊のかなり離れた前方に八本の巨大な水柱が立ち昇る。

「いい腕・・・とは言えんな。」

「艦の概観を見ましたがまだ最終儀装前ですね。光学照準では初弾はあれぐらいでしょう。」

「できれば振り切るまであのままの腕でいて欲しいものだ。」

「そろそろ流氷が流れている海域です。そこまで行けば追撃は出来ないでしょう。」





そして第七斉射が着弾したのと同時に

ラダールレーダーに反応。十二時方向に反応多数。流氷群です。」

「よし。全艦流氷の中に逃げ込め。ぶつかるなよ。」

レーダーに無数の反応が映る。

北極から流れてくる氷塊の集団に向かって三隻の駆逐艦が進んでいく。

後方の戦艦の砲撃は次第に散布界が狭まってきているが命中弾が出る前に流氷群の中に逃げ込めるだろう。

しかし彼らは今だ独逸艦隊の包囲網からは抜け出ていなかった。

流氷までの距離が三千mを切った時レーダー員は異常をスコープから読み取った。

「艦長!流氷群の中に移動反応複数!」

「何っ!?」

前方の、一面白い流氷の中に黒い点が幾つか見える。

そしてその黒い点から赤い火球が発生する。

「前方に発砲炎多数!」

距離三千足らずでは満足な機動は取れない。

クラウスが命令を発するより早く弾着した。

が幸運にも命中弾は無かった。

先ほど自分が下した命令と同じ事を、今度はこちらが味わう事になった。



「見張り、艦型はわかるか!?」

ここで時間が取られるよう物なら後方の戦艦が追いつき絶望的な状況に陥る。

せめて軽巡程度であって欲しいと艦長は考えた。

だが・・・・・

「艦影確認!『アドミラル・ヒッパー』型二!『ケーニヒスベルグ』型一!他、駆逐艦五!」

先に撃破したイタリア軽巡洋艦『タラント』とは ほどではないが、『アドミラル・ヒッパー』は独逸海軍の誇る重巡洋艦である。

先ほどのように十五cm砲で航行不能にさせることは不可能だった。

「重巡発砲!」

「取舵!」

船体が急速に左方向に流れていき床が右に傾斜する。

先ほどまで『フレグランス』が居た場所に水柱が数本出現した。

既に手段を選んでいられる状況では無くなっていた。

艦隊を生き残らせる為、クラウスは命令した。



            雷撃戦用意            



脅威対象を確実に排除するための命令が下された。

水雷科のクルーが発射管を旋回させ、測距を開始する。

程なくして「雷撃準備完了」の報告が艦橋に届き艦長は「雷撃始め」の命令を出した。

三隻から十六発の魚雷が発射され、流氷とそれに紛れている八隻の艦隊に突き進んでいく。

互いに砲を打ち合う幾ばくかの時間が経ち魚雷の命中時間が訪れる。

『アドミラル・ヒッパー』の左舷に一本が命中し駆逐艦三隻も艦中央部に魚雷が命中した。

駆逐艦は魚雷発射管の真下に命中し、同時に魚雷が誘爆、艦を二つ折りにして沈んでいった。

流石に重巡は撃沈はしなかったが多少の損害は与えられた・・・・・と思われた。

だが、

「重巡、依然健在!」

命中の水柱が収まったときそこには何も無かったかのように航行する重巡の姿があった。

このとき重巡の前に流氷の切片が漂っており、それに運悪く魚雷が命中、爆発した。

その距離があまりにも近かった為、見張り以外は被雷したと勘違いした。

今だ戦闘力を維持している『アドミラル・ヒッパー』、『ザイドリッツ』から計十六発の二十cm弾が向かってきた。

そのすべてが『フレグランス』を狙った物だった。


十六発の内二発が命中、一発は後部の第二主砲に命中し装填されていた砲弾、そう約を誘爆させ第二主砲を吹き飛ばした。後の一発は機関室付近に命中し二つある機関室の右舷側に浸水を起こさせ速力は半減した。

「フレグランス」の火力は半減し二隻の僚艦も魚雷を使った今、二門の十五cm砲で反撃していたが多勢に無勢、相手の数に押されていた。

次の斉射で止めを刺すべく重巡二隻は依然、主砲をこちらに向けている。

・・・・・速力の落ちたこの状態でもう一度重巡の斉射を受ければ確実に撃沈される・・・・・

クラウスはこの状況をどう切り抜けるか考えていた。

その思考は唐突に破られる。

「ラダ一ルに反応!一時方向、距離一万八千!」

逃走方向に新たな艦隊が出現した為、特務艦隊は完全に包囲される形となった。

「艦型は!?」

「わ、わかりません!見た事も無い型です!」

そう言われ自分でもその艦を見る。

たしかに今までの独逸艦とは違うシルエットをした艦だった。

戦闘を行く重巡と思わしき艦は、一万トンと見られる船体に城壁を思わす巨体な艦橋、主砲は三連装砲四基を背負い式に配し、艦舷には両用砲らしき砲塔を多数装備させている。

両側の軽巡らしき艦も五千トン程の船体に両用砲を装備させ、艦中央部には煙突三本が立ちその間を巨大な魚雷発射管が装備されている。

そしてどの艦も見た事の無い国籍旗を翻していた。

「艦長!不明艦隊より通信!」



 "ワレ ダイゼロユウゲキブタイ キカンタイヲ エンゴス"



「なんだと?」

第零遊撃部隊と名乗る艦の大型艦が前部主砲を巡らせ『アドミラル・ヒッパー』に照準を定めた。

他の2隻は艦首を左に巡らせ独重巡の右舷に回り込む。

先頭の重巡が前部主砲を放つ。

既に距離は一万四千mまで詰めていたが、この距離から放ったにも関わらず初弾から夾叉を出し、第二斉射で命中弾を出した。

独重巡も「彼ら」を脅威と判断したのか目標を変え反撃を開始した。

が、いずれの艦も夾叉できず反対に損害を増やしていった。

残りの独軽巡、駆逐艦が重巡を救うべく大型艦に肉薄する。

大型艦は僅かに左に切り独軽巡、駆逐艦を右舷に捉えた。

独艦隊は全速で距離を詰めてきていた為、お互いの距離は一万を程になっていた。

そして一万mを切った時、右舷の膨大な数の両用砲が一斉に砲火を開いた。

まず先頭を進んでいた駆逐艦が多数の水柱に覆われた。

三千tに満たない船体に数十発の砲弾が連続して集中し鉄屑に変えていった。

早々に駆逐艦一隻が撃沈されたにも関わらず残りの艦は依然として突進してくる。

軽巡は舵を左に切り駆逐艦が雷撃地点に占位するのを支援する。

先の駆逐艦と同じように両用砲が軽巡に集中する。

が、自身の装備する十五cm砲に耐えられるように設計された船体はその猛火を耐えている。

軽巡が集中砲火を受けている間に駆逐艦は雷撃点に達し順次左舷に魚雷を発射・・・・・

しようとした時、右舷側から突然砲撃を受けた。

依然、西北西に針路を取っていた「フレグランス」以下三隻からの砲撃だった。


砲撃を受けつつも独駆逐艦三隻は魚雷を発射したが、連携のとれていない雷撃になってしまい回避されてしまった。

反対に両用砲の洗礼を受け沈黙した。

軽巡の方も多数の砲弾を受け大火災となっていた。

そして『アドミラル・ヒッパー』、『ザイドリッツ』の二隻にも最後の時が訪れた。

右舷側に回り込んだ軽巡が三連装魚雷発射管を重巡二隻に向ける。

それは『フレグランス』が装備している五三三mm魚雷の直径を遥に上回る大きさの物だった。

そして二艦合計二十四本の巨大な魚雷が二隻の重巡目掛けて放たれた。

距離はまだ八千mを切ったばかりで雷撃の距離としては遠距離の部類に入る。

そして重巡二隻も魚雷の発射を確認し、回避すべく面舵に舵を切った。

舵を四十度ほど切ったところで右舷に高々と水柱が立ち昇った。

それは艦橋を楽に上回り、高さは一〇m程もあるだろう。

それが片舷に一隻は三本、もう一隻は五本立ち昇っている。

五本受けた艦は見る間に傾き一瞬で転覆。

その間五分と無かった。

三本受けた方の艦も傾き、次第にその角度が増していった。

独逸艦艇が沈黙したのを見て、第零遊撃部隊は再度電文を送ってきた。



「艦長、新たな電文です。」

「ああ。」

「・・・・・。」

「・・・全員聞いてくれ。」

電文を読み終えたクラウスはおもむろに口を開いた。

「彼らはこのまま母港に戻るのだが我々も一緒に来てもらいたいと言っている。」

「・・・・・」

「彼らが言うにはこの世界は我々が居た世界ではなく、まったく別次元の世界だという話だ。」

「別次元・・・ですか?しかし我々を攻撃してきた艦は独逸艦でしたし艦尾にも独逸国旗が見えました。」

「その通りだ。我々独逸第一特務艦隊は独逸艦艇に警告を受け、攻撃され、被害を被った。」

「・・・・・何かの手違いと言う事はないでしょうか?我々の任務は極秘の物でしたし、この艦を知っている人間は多くは居ません。」

「確かに我々の事を知る人間は少ないがそれはないだろう。何より最初の警告文が"投降せよ"だったからな。普通ならば所属と司令官を聞いて司令部に問い合わせる筈だ。」

「最初から我々を拿捕するつもりだったと言うのですか?」

「恐らくは・・・・・な。」

艦橋を沈黙が支配する。

改めて言うまでも無く全員が思っていた事だった。

「・・・艦長」

副長のランドルトが口を開く。

「私は彼らの母港に行くべきだと判断します。」

「何故だ?」

「先の戦闘で少なからず損傷し、燃料も消費しています。何より目的も無く航海を続ければクルーが持ちません。」

「だが彼らが何者か分かっていないんだぞ。他国の謀略という可能性もありうる。」

寄り添うように停船している異形の船に目を向ける。

「・・・・・」

「恐らくその可能性は無いと思います。」

「根拠は?」

「彼らの艦です。」

「・・・ふむ。」

手を顎に持っていき確認するように、

「どうやら同じ考えのようだな。」

と言い、艦橋後ろにある通信室に向かい通信機と向き合ってる兵に、

「通信、"我、貴艦に続航す。本艦出しうる速力二十ノット。"」

「了解。」

大型艦は了解の返電を寄越してきた。

第零遊撃部隊は紡錘陣形を形成し、特務艦隊はその中で更に紡錘陣形を形成した。

6隻の艦艇は進路を一路北西に取り北海を脱した。






Menu

Top