共同戦線
クラウスは再び極圏の地に降り立ち、カナリス提督の元に向かった。
ついさっき通った隔壁にたどり着くとそこの前には先程は居なかった兵士の姿がある。
黒を基調とした軍装を纏い手には見慣れない短機関銃を持っている。
「何か御用でありますか大佐?」
クラウスが独逸将校の軍装を纏っているからだろう、片割れの兵の口から出た言葉には警戒感が感じ取れた。
「カナリス提督と面会したい。例の件でお伝えすることがある、と。」
その言葉を聞いた兵士はもう一人と視線を交わした後、「少々お待ちください」とクラウスに言いインターフォンに向かった。
クラウスの用件を聞いた兵士は電話線が繋がっている何処かと話し、もう一人はクラウスの死角へ動いている。
良く訓練されている、クラウスはそう思った。
「こちら港湾区第三ゲート。カナリス提督と面会を求められています。・・・了解しました。」
しばらくすると隔壁が開きクラウスは案内役に連れられ再びカナリス提督の執務室へと来た。
部屋の中に入るとカナリスは書類に目を通している最中だった。
「以外に早いな大佐。慎重を期す君の事だから1日は必要と考えていたが?」
執務机から離れながらカナリスは言う。
「いえ、そこまで時間を掛けて討議できるほど情報が揃っているわけではありませんので。」
「それもそうだな。では大佐、君の結論を聞こう。」
「今の段階では我々は協力する事は出来ません。例の超兵器を実際に確認しなければ納得できない、というのが結論です。」
「そうか・・・。それも当然だな。世界を滅ぼす船と言っても簡単には受け入れられないだろう。」
「はい。ですから超兵器を実際に見てみようと考えています。」
「・・・・・本気かね?」
カナリスは難色を示す。
「大佐、曲がりなりにも相手は巡洋戦艦だぞ?駆逐艦三隻程度では歯が立たん。それに足は向こうの方が速い。振り切れやせん。」
「我々は観客です。舞台に上がるのはR23E船団とその超兵器です。」
一瞬、カナリスは呆気に取られたような顔をした。
「・・・・・。船団を囮に超兵器を確認する・・・か。確かにそれならば君等だけでも可能かもしれん。」
「どちらが美味い餌かは一目瞭然でしょう。かならず船団に喰い付きます。」
「だが問題が無いわけではない。」
カナリスは再び執務机へと向かう。
「挟撃を受けるのはやむを得ません。軽巡程度ならば逆に撃退できます。何より足が違いすぎます。重巡は追いつけないでしょう。」
クラウスがそこまで言い終えたとき提督は一束の報告書を取り出した。
無言でクラウスに差し出す。
一通り目を通した後、クラウスの眉間にはうっすらと皺が寄っていた。
「・・・・・。」
「確かに船団の方が美味い餌には違いないだろう。だがその餌はおとなしく喰われる気はないようだ。」
そこに書かれている内容はクラウスが知る物とは大きく食い違っていた。
英国海軍省は島国という地勢学上、海上輸送が生命線である事を熟知し船団護衛に心血を注いでいた。
そしてR23E船団は 年までに連合国が行った海上輸送任務の中でも最大規模の輸送船団であった。
油槽船三十四隻、貨物船二十四隻からなる船団を戦艦四、護衛空母三、巡洋艦、駆逐艦多数が取り囲む。
この船団に対抗する為には独逸海軍の全水上艦艇をぶつける必要がある、独逸海軍省作戦部はそう分析したが当時独海軍は大型艦が北海・地中海に分散しており船団攻撃が行えずR23E船団は何事も無くブレスト港に寄港した。
もっとも連合国側はそれも踏まえた上で過剰ともいえる戦力を貼り付けたのかもしれないが。
この世界の連合国側も同じような思惑でR23E船団を編成したのだろう。
しかしその規模は『ビスマルク』級など問題に眼中にないかのような物だった。
「君の記憶にある船団の規模とはまるで違うだろう?」
「ええ・・・。私の知るR23E船団は我が軍の全水上艦艇と拮抗する戦力でしたが・・・・・、これでは遥かに上回っています。」
そこには呆れるほどの戦力が書かれていた。
なにせ戦艦だけで九隻、更に巡洋戦艦も二隻随伴し、他にも空母十一隻、巡洋艦十三隻、駆逐艦に至っては三十二隻も随伴しておりその戦力は三個艦隊に匹敵する。
積載物の内容も書かれていたが大した物は積まれていない。
重油、鉄鋼、硝石、コークスといった軍需物資や食料、綿、医薬品などの生活物資等、島国には欠かせないものであるがここまで過剰な護衛が必要な物というわけでもない。
「腑に落ちんか?」
「いえ・・・・・。これだけの戦力が必要な相手・・・・・という事なのでしょう。超兵器は。」
迎撃に三個艦隊が必要な艦・・・・・。
クラウスはそのイメージがわかなかった。
独逸海軍の誇った『ビスマルク』ですら戦艦二隻を主力とする英艦隊に包囲され砲撃戦の末撃沈されている。
ならば建造中だった『フリードリヒ大王』ではと思い浮べたが、三個艦隊に立ち向かう艦には程遠い。
「まあ無理もなかろう。軍人であればあるほどあれは理解し難い代物だ。単艦で戦況を覆す事が出来る船など夢想の物でしかないと考えられていたからな。」
「しかし、本当にこれほどの戦力がなければ太刀打ちできない艦なのでしょうか?」
「正面切っての砲撃戦、同航戦なら超兵器に勝ち目は無いだろうな。」
カナリスはあっさりと超兵器の敗北を言う。
「先ほども言ったが奴の速力は通常艦の比ではない。連合軍側は挟叉弾を出す事もできんだろう。イニシアチブは終始、超兵器が握る。」
たしかに戦艦の大口径砲などは高速で動き回る目標には不向きだ。
かといって重巡などの中口径砲が当たっても被害を与えられるか怪しいものである。
「では超兵器は出てくると?」
クラウス自身、既に出撃してくると踏んではいる。
それでも超兵器の存在を自分より少しでも知っている人間の言葉を聞いておきたかった。
「必ず出てくる。この船団の積む物資が届いてしまえば英国海軍は息を吹き返してしまう。奴とてこれ以上二面作戦を続けられんとわかっているのだろう。復讐の邪魔もされかねんだろうしな。」
「復讐ですか?」
「そうだ。聞いたことはないかね?奴に対する暗殺の話を?」
「噂程度には耳にしたことはあります。・・・まさか。」
「その、まさかだ。尤も暗殺自体は未遂で終わっているがな。」
独逸第三帝国総統アドルフ・ヒトラーは権力者には必ず付き纏う『暗殺』に手を焼いていた。
食事に毒を盛る、移動中に襲撃される、式典に出れば事故を装い命を狙われる、等等なんとも厄介な物である。
しかし大半は実行前に押さえられヒトラー自身に害が及んだ事は今のところ無い。
そしてつい4ヶ月前、それら暗殺の送り主の名前が割れそれを知ったヒトラーは不可侵条約を破棄し怒涛の勢いでソビエト領内へ侵攻した。
現在はプスコフ、スモレンスク、ゴーメリ、キエフ、オデッサを落としたところで手持ちの燃料弾薬が心もとなくなり侵攻部隊は一旦停止、タリン〜オデッサに掛けての戦線を維持し補給が全部隊に行き渡るまで防御戦闘に徹している。
「・・・・・話を戻すぞ大佐。君の考えでは船団の統制を失わせ超兵器を誘き出すということだが・・・、君らだけでは不可能だと私は思う。」
『フレグランス』、『バルクホルン』がいかに優れた艦であろうとそれは駆逐艦の枠組の中でのことであり、軽巡洋艦以上が相手では被害は免れない。
先の遭遇戦のような奇襲まがいの戦法も取れないが、クラウスには他の言葉を持ち合わせていなかった。
「無謀と言えど成さなければ納得させられません。」
その声には強い意思が込められていた。
苦笑しつつカナリスは言葉を重ねる。
「まあ落ち着け。その考え自体を否定しているわけではない。ただ君らだけでは不可能だ、と言っているんだ。幸い今月の輸送スケジュールは終了している。護衛艦艇も今は港だ。彼らを支援に付ける。それならば生還率は上がる。」
「支援を得られるのなら喜んでお願いしますが我々はまだ独逸海軍です。作戦中に齟齬が出ないとも考えられませんが?」
「見くびってもらっては困る。彼らとて元は軍人だ、私情は挟まん。」
それでもクラウスの顔色は優れない。
「それにだ、この行動によって君らの協力が得られるというのなら文句など出んよ。」
今はどんな戦力でも欲しいからな、とカナリスは締めくくる。
クラウス自身、自分の艦隊だけでは難しいと考えていた。
支援を得られるのなら断る理由はない。
「では提督、艦隊の支援、よろしくお願いします。」
クラウスは第零遊撃部隊の支援を要請した。
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