会敵
上空を十二機の戦闘機が通過していく。
見る者が見ればそれは独空軍のFw-190に見えた事だろう。
同時にその光景に不可解さを覚えるだろう。
その機体が飛んでいるのは独逸本土はおろかイギリス本土よりもさらに北、北極海海上であるからだ。
さらに不可解なのは飛んでいる機体その物。
その機体には書いてあって然るべき恐怖の象徴たる鉤十字、ハーケンクロイツが描かれておらず、機体の塗装も濃緑色迷彩では無く空戦時での非視認性を考慮されたライトグレーに塗られている。
「瓜二つだな。」
艦橋から見える光景にクラウスは呟く。
補給・修理とささやかな休養を終えた特務艦隊は二日前に遊撃部隊本部を出航、既にフェロー諸島を超えノルウェー海に入っている。
数日前にムルマンスクを出航したR23E船団は十八ノットで巡航しイギリスへの寄港を急いでいた。
「中身は全くの別物です、大佐。」
飛び去った十二機の戦闘機を見やりながら呟くクラウスに応えるように声が挙がる。
声のした方にはクラウス達とは違う軍装を纏った女性仕官が立っていた。
エリス・コーネリア、第零遊撃部隊情報部に属する情報仕官である。
今回、立案された超兵器探索作戦<北海の幻>を実行するに辺り遊撃部隊側はクラウスに一つの要請をしてきた。
”作戦参加艦艇一隻に付き、遊撃部隊情報部将校一名の乗艦”
これが第零遊撃部隊が寄越してきた要請である。
理由として超兵器発見後の撤退を確実にする為と遊撃部隊側は説明した。
クラウス自身、超兵器の存在を信じ切れていない事もあり遭遇後の艦隊指揮を冷静に行えるかという懸念もあったためその申し出を快諾した。
「MF-3艦上戦闘機です。提督と共に転移してきたFw-190Dを回収し再設計した機体です。運動性と防弾性を重視して開発された機体で、まだ先行量産機が始まったばかりです。今回の作戦の為に『マクタン』には十二機が積まれました。」
『マクタン』とは第零遊撃部隊が保有する『クライトン』級護衛空母の一艦である。
高速の民間商船に甲板を張った急造空母で搭載機数は予備機含めて僅か十六機。
遊撃部隊設立当初から様々な任務に従事してきたベテラン空母である。
「恐らく船団を発見したのでしょう。」
その言葉を裏付けるように信号員が『マクタン』からの発光信号を報告してきた。
船団はモー・イ・ラーナ沖を航行中であり現在までに超兵器の出現は確認されていないとの内容だった。
今のところは作戦は障害無く進んでいた。
遊撃部隊の推測では敵超兵器との会敵海域は北海とノルウェー海境界に位置するベルゲン沖だと想定した。
これまでの交戦記録や諜報活動から独超兵器は北海及び英仏海峡においてのみ作戦行動を行っておりそれ以外の海域には進出した様子が無いことがわかっており、遊撃部隊本部では消耗を避けての消極的行動と判断した。
そしてその消極的行動を取る超兵器を引きずり出す為にノルウェー沖にて船団を攻撃するのである。
燃料に余裕が無い最短距離であるノルウェー沿岸を通る航路でイギリスへ向かう。
クラウス達がノルウェー沖、北海出口で攻撃を仕掛ければ多少の無理をしてでも超兵器は出てくるだろうと読んでいた。
「准尉、十二機もこちらの直援に付けて大丈夫なのか?」
遊撃部隊が出した第六護衛戦隊は『マクタン』の他、重巡『テンペスト』、駆逐艦『シャフター』、『スウィフト』、『スパイトフル』の五隻から成る。
『マクタン』は搭載機数十六機中十四機がMF-3であり残り二機は偵察機としてMB-2爆撃機を搭載している。搭載機数の半数以上をこちらの直援に就けてしまえば第六護衛戦隊の上空はがら空きになる。
「予定通り第六戦隊は船団から距離を取り敵攻撃機の行動半径外へ退避します。護衛艦艇も付いていますので大丈夫です。」
「ふむ、船団の現在位置は?」
MB-2の一機がR23E船団に接敵しその位置情報を逐次送ってきている。
「現在、R23E船団は速力二十二ノットでトロンヘイム沖を航行しています。目標海域には後四時間後程で到達すると見られます。」
ローランドが偵察機から送られて来る報告を述べる。
四時間で至上まれに見る奇妙な戦闘が始まる。
二日前の遭遇戦とは比較にならない戦闘が。
それを前にクラウスには済ましておきたいことがあった。
「副長、しばらく艦橋を頼む。」
艦橋を後にしようと翻した背中に言葉が投げ掛けられる。
「大佐、どちらへ行かれるのですか!?」
コーネリアだった。
彼女からしてみれば数時間後に戦闘に入るにも関わらず艦長が艦橋を離れるというのは予想外の行動のようだ。
しかしこの艦の人間からは周知のことである。
「私は艦内を回ってくる。准尉、君は艦橋に居たまえ。」
そう言うとクラウスは昇降口に向かおうとしたがその背中に声が掛けられた。
「宜しければ私も御一緒させてください。この艦に慣れておきたいのです。」
コーネリアは本来この艦に居ていい人間ではない。
彼女は未知の存在である超兵器から逃れる為のアドバイザーとして乗艦させているに過ぎない。
この艦にはそれまでの艦艇には無い新機軸の機構が多数組み込まれており機密保持においては海軍最高レベルである。
故に素性のわからぬ人間に不用意に艦内を歩き回られるのは得策ではない。
そこまで考えクラウスはその思考を打ち切った。
(何を今更。)
この世界で祖国の名を冠する国は我々に敵意を抱き、他の国も似たような物。
唯一、対立していないのは第零遊撃部隊のみ。
ならばここで協力の意思を示し、彼らの信頼を得る事は今後の行動にも影響を良い及ぼす事だろう。
(それに・・・・・。)
彼女の言葉ではないが、長い付き合いになりそうだとクラウスは感じた。
「・・・・・来たまえ准尉。艦内を案内しよう。」
クラウスは熟考した後、そう告げた。
最初にクラウス達が訪れたのは船体中央に二基据えられた魚雷発射管の内の前部発射管の所だった。
「「「艦長!」」」
その場所に居た水雷科のクルーが敬礼する。
「どうだ?操作には慣れたか?」
先の戦闘で『アドミラル・ヒッパー』に魚雷を命中させ少なからず影響を与えた魚雷であったが第零遊撃部隊では『フレグランス』、『バルクホルン』で用いられている発射管に合う魚雷が無いために発射管ごと換装することとなった。
他にも主砲を五十五口径十四cm連装砲に換装するなどの改修を受けていたが、両級の特徴である『船体各部のモジュール化』によって短期間で改修を完了していた。
「発射管の操作はどれも似たような物です。変わったのは旋回速度が遅くなった事くらいです。」
重量が増えましたからね、水兵の一人がそう言う。
今まで据えられてた 発射管は5連装だったのでその重量分、若干旋回速度は落ちている。
「前の感覚のままだと君らは暇になってしまうか。」
クラウスは意地の悪い笑みを浮べながら言う。
「そりゃ困ります。こいつをもらった意味がありませんよ。」
水兵たちが笑いながら言う。
「ところで艦長。」
別の水兵が口を開く。
「そちらの方は・・・・・」
クラウスの後ろに居たコーネリアに視線が行く。
「彼女は我々を援護してくれた組織の将校だ。」
「第零遊撃部隊情報部のコーネリア准尉です。よろしくお願いします、曹長。」
そういうとコーネリアは手を差し出した。
クラウスは意外だと思った。
一般に情報部員は情報の漏洩を避ける為、不必要な接触を避ける。
しかしコーネリアは進んで水兵達に話しかけ情報を共有している。
照準機の精度はどうか?魚雷の装填速度はどうか?旋回は問題ないか?など技術的なことであったが頻りに話しかけている。
データ収集も任務の一つなのだろう。
二、三会話を交わした後、クラウスとコーネリアはその場を去った。
そして、四時間と少しが過ぎた後、艦隊は目標の船団をレーダーにて捉えた。
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