prologue
1943年年 北海 0230時
独逸海軍 第一特務艦隊
旗艦『フレグランス』艦橋
「・・・・・。」
「艦長。目標海域まであと20浬です。」
「うむ。・・・・・僚艦に通信。総員戦闘配置。警戒を厳に。」
「ハッ!」
「『姫君』からの通信は?」
「はい。準備は完了。迎えを待つとのことです。」
「そうか・・・・・。」
「支援部隊からは戦艦『ネルソン』、『ロドネイ』以外の戦艦は確認せず。空母も確認せずと入っています。」
「情報部からは何か入ったか?」
「いえ何も入っていません。」
「・・・・・カナリス提督が居なければこんなものか。」
ヴィルヘルム・カナリス 独逸国防情報部「アプヴェール」長官。
43年初めに航空機で移動中消息を断って以来「アプヴェール」の諜報能力はがた落ちとなっていた。
今では「アプヴェール」は「SD(保安諜報部)」と統合されるという噂まで流れている。
「あちらさんがSDの欺瞞情報に掛かったとしても十隻以上の艦隊にたった三艦の駆逐艦をぶつけるとはな・・・・・」
(せめてあと一年開戦を遅かったら・・・・・)
本来、第一特務艦隊は巡洋艦三、駆逐艦五を有する艦隊として編成される予定だったのだが、戦況の悪化、英空軍の爆撃によって建造中の巡洋艦2隻が全損。
他の艦も少なからず損傷し工事が遅れていた。
そんなところへ『ビスマルク』沈没の報が入り、フィヨルドに追い込まれた『ティルピッツ』も沈められると焦った独逸は完熟訓練を終えたフレグランス級大型特殊駆逐艦一隻、バルクホルン級特殊駆逐艦二隻を急遽『ティルピッツ』救援に差し向けた。
「戦艦、重巡は『ティルピッツ』に引き受けてもらい我々は軽巡、駆逐艦を片付ける。そのように伝えてくれ。」
「ハッ」
(十隻中二隻は戦艦。残り八隻のうち・・・・・重巡二隻、軽巡一隻、駆逐艦五隻といったところか。
我が艦隊は何とかいけるだろうが『ティルピッツ』に四隻は辛いだろうな。早々に軽巡以下にはご退場願い『ティルピッツ』を支援しないとな。)
第一特務艦隊司令兼、旗艦『フレグランス』艦長 クラウス・ハルトヴィック大佐が艦橋で随分と図々しいことを考えているそのときそれは起こった。
風も穏やかな筈が艦橋の強化ガラスが振動し始めた。
最初は微震程度の物だったが次第に大きくなっていく。
さらに今度は艦橋に有る時計がそれまでとは逆に勢いよく回り始めた。
クラウスは自分の懐中時計にも目をやったがそれも同じように逆に回転していた。
時計だけではなく羅針盤も針が回転し役に立たなくなり、レーダーも霞がかったようにノイズが入りその機能を喪失した。
(なんだ!?何が起こった!)
クラウス自身も自体を把握しておらず混乱しているときに艦橋要員の一人が
「艦長!これはイギリス軍の仕業ではないでしょうか!?」
たしかにこちらの行動をイギリスが掴んでいる可能性はある。
最悪この艦の情報が向こうに渡っているなら考えられるがそれにしては件のイギリス軍は今だ姿を表しては居ない。
「!艦長!!」
ウイングに出ていた見張り員が悲鳴に近い声を上げる。
「なんだ!?」
「あ、あれを!」
見張り員の指が示す方向から朝日が昇っていた。
「ただの朝日じゃないか。あれがどう・・・・・」
そこまで言って気づいた。
自分たちは北に進路を取っている。
太陽は東から昇ってくる。
自分たちの目の前にあるものが太陽であるはずがない。
「光が!!」
正面に発生した光源を回避すべく転舵の命令を出そうとしたときそれは爆発したように発光し急速に広がっていった。
「転舵!取り舵一杯!!急げ!!!」
まだ間に合う。その思いでクラウスは命令を発した。
しかし
「駄目です艦長!舵が効きません!!」
「!?僚艦に変針しろと伝えろ!!」
自艦は助からない事を悟りせめて他の艦は回避させねばならないと考え信号手に命令を伝えた。
しかしその命令は徒労に終わった。
こちらが発光信号を発する前に僚艦2隻から「我 操舵不能」と信号を送ってきた。
艦の計器を狂わせ操艦も不能にさせる光源。
第一特務艦隊に為す術は無かった。
わずか3隻の艦隊は光の中に消え、艦隊を飲み込んだ光源は音も無く消失し、後には穏やかな北海の海が存在していた。
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