その他 / いただきもの「四角い部屋の隅で・・・」

marimoさんからいただきましたー。もずくずくずく。

カフカの変身ではないけれど
朝起きると僕は小さなネズミになっていた。
やたらと体が軽いが酷く息苦しい。

しかも、100円均一で買われたのであろう
プラスチックのCDケースに入れられていた。
(取ってのついてるやつだ)
やたらと湿気ぽいオガ屑が敷き詰められ
カロリーメイトの空き箱があった。
それだけ。たったそれだけの世界だった。

・・・外は見えない。ケースは半透明で
目が慣れて無いせいか
外がどうなってるのかはよく分からない。

上を見上げると申し訳程度に
ポツンポツンと空気穴が空いてる。

何もなくてしょうがないからオガクズの中に
するりと潜り込んで寝ることにした。
大体僕はどうしようもない事態に右往左往するのが
嫌いなんだ。不思議と混乱もしてない。
もちろんいい気分じゃあない。というか
かなり不愉快きわまりない。
だけどここでガタガタしても仕方ないこと位
状況からして明白だった。

オガクズの中はまるでサウナだ。
苦しいし暑いし、とても心地いいもんじゃない。
でも上よりマシだ。しかもそんな状態とは
裏腹に身体の方はこの空間がかなり馴染んでいる。
さすがネズミだ。何か囓りたくてしかたない。
しかし僕はなんといっても冷静なネズミだ。
寝ることに集中する事にした。
これより悪い事態になる事なんて容易に想像できる。

白い意識が僕を覆うといつの間にか寝てしまっていた。
目が覚めればいつもの毎日だ。これはきっと・・・夢。
悪夢というより、ばかげた僕の妄想。


・・・。


しかしそれは夢ではなく、平和な眠りも長く続かなかった。
というのは突然天地がひっくり返ったのだ。
ぼくはケースの底に思いっきり頭を打った。
オガクズが正方形の箱の中で乱舞する。
何度目かの
「一体何が起こったのだ」
という問いが僕の頭をかすめる。

「あーー、やっぱり潜ってた!」
という女の声がしたかと思うとひょいとつまみ上げられた。
人間だ。僕はどうやらこの人でなし・・・でなくネズミなし
に飼われているらしい。
「餌はなにあげればいいのかなあ」
その若い女は僕を畳の上に乱暴に置いた。
僕は恐怖に震えた。そして思い切り逃げた。とにかく隅へ!
・・・が!なんとごちゃごちゃと汚い部屋なのだろう。
逃げるに上手く逃げられない。
しかし側にあったコットンのカーディガンに身を隠すことにした。
するりと袖に滑り込む。暗い。しかしさすがネズミだ。
なんとか見えなくもない。

するとふわりとカーディガンが持ち上がった。
「あれー?モズク・・・?こん中に逃げたよねえ?」
モズク?それが僕の名前なのだろうか。
なんてセンスの無い名前なのだろ・・・
と、僕が腹を立てようとしたところで
畳に思い切り叩きつけられた。カーディガンを振り回したのだ。
一瞬意識が飛ぶ。
思い切り鳥肌がたった。なんて・・・なんて乱暴な女だ。
僕が人間のオスなら絶対にこんな女は願い下げだ。

「ごめーん!モズクヘイキだった?」
ヘイキなわけないだろう!
「ハイ、チーズとひまわりの種だよ。」
無理矢理口に近づけられたそれは
空腹の僕には、それまでの仕打ちに反抗する余地が
ない位に魅力的なものだった。仕方なくむさぼり食った。
どんどん口の中にため込んでいく。
そしてキャベツを残らず食べ終わると
またひょいとそのケースに戻された。
・・・しまった。逃げ損ねた。
「やっぱりハムスターはひまわりの種が好きなんだー。」
と言ってその女はハムスターのアニメの歌を歌い出した。
なんてご機嫌なヤツだろう。

・・・ハムスター?
僕はネズミじゃ無いのか?そういえばしっぽが短い。
やたら丸い。
ハムスターもネズミも大差ないか。


僕はすっかりハムスターだ。
早く元の生活に戻りたい。
しかしこの暮らしは地震が多いものの(どうやら
この女は移動するのが好きらしいのだ)
美味しいレタスやチーズやひまわりの種が
腹一杯食べられるのはとても満足している。

たまに畳の上で散歩もさせてくれる。
まんまと逃げようとすると、2本のすごく
太い指でつまみ上げられる。
しかし、僕はいつか逃げおおせてやる。
絶対。
そして自由になって元に戻るのだ。


ところで、僕はなんなんだろう。
ハムスターになる前は、なんだったのだろう。
それがどうしても思い出せなくて
今日も僕は割り箸を囓って考えている。


***
RTJ(閉鎖)のmarimoさんからいただきました。
3900Hit踏みつけ記念、および初夏仕様(2002.6〜)記念にと。
美味しいレタスやチーズ。あぁ、なんか無性にうらやましい(笑)。
しかし、モズク。名前もそうだけど… ご愁傷さま(笑)。

「カフカの変身ではないけれど」という書き出し、好きだなぁ。

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