内閣と国民の「対話」が、実は周到な「やらせ」だった。
 教育改革タウンミーティング(TM)で、一般参加者を装って教育基本法改正への賛成発言をするよう政府が仕込み、演技指導までつける。民意を愚弄(ぐろう)するそんな行為が常態化していた疑いが強まった。
 発端は九月の青森県八戸市でのTMで、内閣府が地元教育委員会を通じて発言者を決め、文部科学省作成の文案に沿う質問をさせるなどしていた。
 内閣府の調査では、八会場で開いた教育改革TMのうち、やらせは五会場であり、発言者五十五人中十五人にのぼる。二〇〇四年五月にあった松山でも発言者八人中一人が該当した。
 高校の必修科目未履修問題や相次ぐいじめ自殺は、教育関係者の隠蔽(いんぺい)や不正をいとわない体質をあぶり出した。文科省の不作為も明らかになっている。

 今回もやはりという思いで、信頼はいよいよ地に落ちた。
 大臣らが地域へ出向き、民意を政策に反映させるはずのTMで、政府の意向に沿うよう誘導してアリバイづくりに利用する行為は国民への背信だ。しかも内閣府の教育改革の歴代担当者は文科省からの出向という。
 「棒読みにならないように」と指導し、座席を確かめて多数の挙手のなかから指名していたことも考えると「議論活性化のため」(塩崎恭久官房長官)という釈明に説得力は乏しい。
 中央教育審議会は〇三年三月に教育基本法改正を答申した。やらせはその年十二月から翌年十一月までが中心だ。なりふり構わず世論操作してでも改正に導きたい。そんな確信的意図が文科省になかったろうか。
 松山では七人分の質問案が作られていた。指導力不足教員対策や家庭教育の充実など国会審議中の改正案の目玉が目立つ。
 うち実際に発言したのは中学校長で、当時は県総合教育センター幹部だった。インターネットで公開されている議事要旨を見ると質問案との酷似ぶりに驚く。それでも当初は依頼を否定する説明をしていた。
 発言時、中学教員と名乗ったのも解せない。県総合教育センターは県教委の機関で、指導力不足教員の研修なども行う。その幹部と一教員とでは発言の受け止められ方も当然ちがう。
 七月にあった県主催のプルサーマル公開討論会を思い出す。質疑の際、賛成派の指名を求めるメモを県が司会者に渡し、加戸守行知事は閉会後「反対派が作戦を立てて支配的に反対意見ばかり続いたので、気にしたのだろう」と語った。これも民意の軽視ではないか。
 政府はすべてのTMを調べ、文科省も関係者の処分を検討するという。当然だが、手際良い対応には国会審議への影響を避ける狙いもあるのだろう。
 個人の尊厳、自主的精神、不当な支配の排除教育基本法が掲げる理念を踏みにじった政府は、まず現行法の理念を体現するべきだ。その努力を怠り、教育問題が基本法に起因するかのような理屈で改正を推し進めることは、やはり認められない。

愛媛新聞 11/10(金)付社説
やらせ質問 教育行政への信頼は地に落ちた