8 月 11 日 

08’8’11
 8月11日、今日は亡夫の誕生日である。 若々しく元気だった夫に、私は、「80歳までは固いね」といつも言っていた。 我が家では二人とも、先に逝くのは私で、後に残るのは夫だと思っていた。 私が、「少し身の回りの整理をしておかなくては」と言うと、「大丈夫だよ。俺がみんなしてやるよ」と言ったものだ。
 夫は今日の誕生日で、79歳になるはずだった。 私が折り紙をつけていたのに、亡くなって、もう22年目に入っている。 一方、「70歳までは生きたい」と言っていた私は、それを大きくオーバーした今も、意外と元気で生きている。 人間の一生も分からないものである。

 立秋を過ぎても暑さの続く毎日だが、風の気配、雲のたたずまいに、なんとなく秋を感じるようになった。 地球の温暖化が言われて久しいが、最近はその影響が顕著になっている。 冬の暖かいのはすごしやすくて助かるが、夏のこの異常とも言える暑さには閉口だ。

 夏休みも半ば。 近所に子供があまりいないせいか、静かである。 昔は子供たちの歓声や、監視員の吹く笛の音が聞こえて、「夏だなぁ」と思わせた、我が家から程近い水上公園プールも近年は静かなものだ。 プールの事故も相次ぎ、親も心配で行かせたがらず、子供たちも家の中でゲームでもしているのが、今の夏休みの標準的なすごし方」なのだろうか。

 人間も草花もげんなりする厳しい残暑の午後、威勢のいいのは蝉である。 木のある場所が減ってきているためか、庭はうるさいほどの蝉時雨である。
 農薬の心配もない、落ち葉の積もった土は、居心地が良いと見えて、蝉の抜け殻がそこここにあり、よく見ると地面には蝉の這い出た穴がたくさんあいている。
 例年通りの「早朝草むしり」に励みながら、羽化したばかりで、まだ飛べない油蝉に、「悪いねぇ」と言いながら、踏まないように気をつけて草を引く。 池も作りかけのまま残り、きれいな庭造りは私には到底できないが、せめて草くらいは抜こうと思っている。 日が昇ってくると、やがて、蝉も飛び回る。
 油蝉に混じって、ミンミン蝉が鳴き、立秋のころからはツクツク法師も鳴きだした。 今年は鳴きだすのが早いようだ。

 若いころ、「自分に、教師という仕事は向いていない」と言いながらも、結局は生涯教師だった夫は、夏休みにツクツク法師が鳴きだすと、夏休みの終わりが近いことを残念がっていたものだ。
 今年のように早くから鳴きだしたのでは気の毒だったなと、おかしかった。 やりたいと言っていた陶芸でもしていたら、どんな気持ちでこの蝉の声を聞いたのだろうか。

 蝉の声は絶えることもなく続いている。 百日紅のピンクが青空に映えて美しい。
 近頃、夫が生きていたらどうしただろうと考えることが多くなったのは、私が年を取ったせいなのかもしれない。 なぜかしっかり者と見られがちな私の弱さを、しっかり知っていてくれる人だった。 たまには会って話をしたいとも思う。
 「おばあさんになったなぁ」なんて言いっこなし。 「そっちだって来年は80のおじいさん」なのだから。
 平成20年の8月11日も、もう、夕方近い。

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