05’11’25八王子の高尾山から陣馬山に抜ける縦走路は、冬の山歩きにはまことに楽しいコースである。 この縦走路の途中に景信山はある。 先日、この景信山に私たちは出かけた。 中央線の高尾駅から、バスで大下まで行き、登り始めた。
十一月初旬の山は、そろそろ紅葉も始まり、寒くもなく、暑くもなしで、歩くには最適の時季である。 足元のつるリンドウや稚児ゆりの実を楽しみながら、頂上でにぎやかに食事を済ませ、堂所山を経て、陣馬高原下へ下山した。 その下山時のことである。 もうすぐ林道に出るというところで、ぱらつきだしていた雨脚が強まり、急遽雨具を着用することになった。
最近の私は山に行くときも、重いとは思いながらも、一眼レフのデジカメを持って行く。 雨が降り出したときに、真っ先にしまうのはカメラである。 人間はぬれても着替えたり、洗ったりすれば済むけれど、カメラをぬらすわけには行かない。 まず「大事なカメラ」を袋に収めてリュックに入れる。 それから自分の番だ。 ここで、全員が雨具の着用を済ませるのに数分はかかっただろう。
間に合うようにと、バス停に急いだけれど、バスの影もない。 始発なので、まだ来ていないとは考えられない。 時刻表を改めて眺める。 わずか2〜3分の差だった。 そこまで来ていたのに、雨が降り出したのがまずかった。
次のバスを待っての4〜50分は長いが、まぁゆっくり休んでいようと思うより仕方がない。 乗車券を発売しているバス停前の店で、乗車券だけを買っておく。やがて、まだまだ時間があると思うのに、バスの姿が見えてきた。 あのバスは回送かな、と話していたのだが、そうではなかった。 なんと、昔懐かしい「ボンネットバス」が来た。
八王子で、「夕やけこやけ号」と言うボンネットバスが運行されていることは聞いていた。 女性車掌は前に鞄を下げた、昔のスタイルそのままである。
思いがけず早く来たと思ったら、バス会社が違って、こちらは「イベント」的に、休日に何本か運行されているのだと言う。 購入した切符で乗れると言うので、乗ることにした。
我々の貸しきり状態のバスだったが、恰幅の良い運転士がまた面白い人で、「すごく揺れますから、八王子に着く頃はげんなりしますよ」などと言う。 暖房も冷房ももちろんない。
最前列に座ってもいいのかなと尋ねると「そこはグリーン車」、との返事なので、「このバスはどこもグリーン車でしょう」と、応じた。 座席も「昔色」のグリーンだ。 運転席のギヤは、例の長い棒。 運転席の作りも昔のままだと言う。
ハンドルが重いらしい。 「スピードが出なくていい」と言ったら、「私は出しますよ」と来た。 「その体格じゃ重くても大丈夫よね」とみんなでおかしがる。
「このバスで寝られる人は、よほど疲れているか、神経の太い人」と笑わせる。 どちらだか分からないけれど、私も眠くなった。 小雨の中で、ぎこちなく動いているワイパーの小ささも話の種になりそうだった。すごく揺れたと言う人もいたけれど、座席の位置の関係か、昔人間のせいか、私は特に強くは感じなかった。
昭和42年製のバスで、ボンネットバスとしては「最新型」らしいが、誰にでもすぐ運転できるわけではないと聞けば、やはり「大昔の乗り物」なのだろう。 普段から、整備には特に気を使っているということだった。
バスも珍しかったけれど、運転手の人柄のほうが、強く印象に残ったのもおかしかった。 もう一度ぜひ乗りたいとは思わないけれど、思いがけず、楽しい経験ができた。 ボンネットバスも、運転士も、これから、景信山に登るたびに、仲間との話題に登場しそうである。