09’3’6
さる大学の教授が、庭や街で普通に見られる木や花の、姿や生態を写真と文章で紹介する本を刊行されることになり、その中のシクラメンについての記述に、シクラメンの根の写真をお貸し願いたい、と言うものだ。
シクラメンの肥大した根とブタマンジュウの説明に必要なのだそうで、著者自身がシクラメンの根を腐らせてしまったため、探し出したのが、私の写真だったらしい。 良くまぁ、そんなものを探しだしてくれたものだと、半ばあきれてしまった。
2006年から7年にかけて、私はホームページに、ミニシクラメンの育成日記を毎週更新する形で載せていた。 毎年暮れに一鉢ずつ購入していた鉢が四鉢になっていたので、それにABCDと古い順に名前をつけて、休眠していた根が発芽して開花し、再び休眠するまでを撮影し、掲載したのだった。 その中にある根の写真である。 その写真は、私が植え替える前の業者が植えたままの、四鉢の中では一番新しい根だったから、確かに状況はよく分かるのかもしれないが、少なくとも、「美しさ」には無縁の姿である。
シクラメンの別名が、「ブタマンジュウ」だとは聞いていたが、改めて見ると、納得できる根の形である。
できれば、もう少し解像度の高い写真を貸してほしいとの依頼ではあったが、私には、シクラメンの根の写真が後々必要になるとも思えなかったので、ホームページに載せた後、もとのデータは削除してしまってあった。
やむを得ず、せっかくのお話ではあるが、お役に立てず申し訳ない旨返信した。 折り返し、ホームページ掲載の写真でも「3cmx4cm」くらいには印刷できるのでお貸し願いたいとのことで、結局使っていただくことになった。
だめとなると、なお使いたくなるものなのかもしれないし、比較的、高画質で保存してあったから、どうにかなるのかなと思ったりしたが、そういう方面のことはよく分からぬままにやっている私である。
その本が二月末に刊行されるとのことだったので、なんとなく楽しみにしていた。
「撮影者名を明記する」そうで、「本名でも、ペンネームでも、もちろん掲載不要でもご希望通りに」と話があった。 おそらくこんな機会は最初で最後だろうからと、記念の意味も含めて、「本名で」とお願いしておいた。 しかし、何といっても白黒写真の「ブタマンジュウ」である。 どんなことになっているのか興味があった。
二月末近く、「本ができました」とメールが入り、二十五日発売で本屋に並ぶとのことだった。 二十五日付けの礼状とともに送っていただいた本は一冊かと思っていたら二冊だった。 それに三千円のクオカード。
「我がブタマンジュウ」も、それなりにサマになって収まっていた。 「ブタマンジュウ」と撮影者名の掲載ページには目印の黄色いテープがはってあって、さすがにきちんとした対応をしてくれていると感じ入った。 と同時に、あの「ブタマンジュウ」で、こんなにお礼を頂戴することに、いささかの負い目も感じたのだった。
ともあれ、二ヶ月にわたった「ブタマンジュウ事件」は一件落着となった。
その後、更に六鉢に増えた私の「ブタマンジュウ共」は、今、どっさりとつぼみをつけ、春の訪れとともに、開花を始めている。