10’5’28
花の「名前」はチューリップに限らず、花菖蒲園に行けば、美しい和風の名前がつけられているし、バラ園では、有名な個人の名前を冠したものも多く、椿にまでも多様な名前がついている。 藪椿と乙女椿の差くらいしか知らなかった私としては驚くばかりである。
花の時期になるとインターネットのホームページには時季の花の画像が溢れる。 それまで、花などにあまり関心のなかったらしい人が、ホームページに載せるために花の撮影に行くと言うケースも多いと見受けられる。 おりしも中高年のカメラブームである。 デジカメの出現もカメラブームや、ホームページ作りに大きく影響しているのだろう。
ホームページにも、何年か前までは、花菖蒲の花を真上から撮影した、いわゆる日の丸構図の画像にそれぞれの名前をつけて並んでいたものだ。 きれいに撮れた写真、美しい名前に、撮影者自身が魅了されてのことだったのだろう。 しかし、その中の一枚の画像を選んで、「これはなんという種類ですか」と尋ねても、おそらく撮影者自身にもそれは分るまいと私は考えていた。 花菖蒲の花の違いを見分けるのは、特に難しいと思う。
それはどの種類の花についても言えることであろうが、私自身、特に気に入った花菖蒲と、バラの花の幾種類かは記憶に残っていて、ほかで見かけた時に「ああ、あれだ」と思うことはあるものの、ほとんどは「きれいな菖蒲」、「素敵なバラ」で終わってしまう。
そんなわけで、私は、もちろんその場では、その「凝ったネーミング」に感心したり、気持ちの和むことはあっても、花の名前を表示することにさほどの意味を感じていなかった。
五月も終わり近くなって、やっと時間の取れる日と天気の良い日が重なり、バラの花を撮りに出かけた。 花の撮影にはちょっと陽射しが強すぎる日だった。 あまり遠出はできないので、近いところで、あきる野市の都立あきる台公園のささやかなバラ園に行った。
撮影目的で来ている人は、私以外に二人だけ。 写生のグループと、散歩の保育園児、それに、散歩がてら携帯電話で写している人たちがいるくらいで、子供たちが去った後は静かなものだった。 ここでは、花にぐっと近づくことができないとか、下手な私には難しい面もあるのだが、この静かさが、カメラに集中できるので気に入っている場所である。
新緑に囲まれたバラ園の雰囲気は好ましいものだった。 二時間ほどいて、そろそろ引き上げようと思っていた時に、夫婦らしい人たちの声が耳に入った。 「ここは名札がついていないからつまらないね。 それぞれ名前があるのだろうに」と。
「目からうろこ」とまでは行かなかったけれど、意外な話を聞いたと思った。 そうか、そういう人たちもいたのだと、初めて知った気持ちだった。 確かにそういう人たちがいるから名札を立て、その名前をホームページの画像にもつけることになるのだろう。 その凝った名前も「関心を持つ人があればこそ・・・」の凝り方なのかもしれない。
「名付け親」の心意気も感じ取らなくては失礼なことだったと、反省した。 花たちも、それぞれ、自分の名前に誇りを持って咲き競っているのかもしれない。
私の写真の出来は相変わらずがっかりするものだったが、思いがけない「勉強」をさせてもらった。
次は花菖蒲か紫陽花か。 花につけられた名札を、今までとは少し違った目で見られそうな気がしている。