「ああ、これよ!」と思わず大きな声になりました。羽村では「盆花」と言われているこの花の名前を知りたいと長い間思って来ました。その花が朝日新聞の「花おりおり」に載ったのです。
子供のころ、この花は高円寺の実家にありました。母が「ひおうぎ」だと教えてくれていました。
実家が戦争中強制疎開で取り壊され、そのときにこの花もなくなり、それ以来見かけることもなく過ぎて来ました。
私が物心ついたころから病身だった母が亡くなったのは、終戦直後の私が五年生の秋のことです。
生け花を習うようになって「ひおうぎ」は別の花だと知ったのですが、思いがけないことに、結婚後住んだ羽村の我が家にこの花が生えたのです。時には抜いて捨てるほどの勢いで増えました。この節はあちらこちらで目にする花になりましたが、誰に尋ねても名前は分かりませんでした。
葉の出かたは確かに「ひおうぎ」にも似ていますが、球根で、花のつき方などはむしろグラジオラスに似ています。図鑑でもさっぱり見つけられませんでした。
母は大変花の好きな人でした。早く亡くなりましたので、聞いておきたかったと思う事柄がたくさんあるのですが、この花もどこで手に入れたものか、今となっては知るすべもありません。当時はよそでは見ない花でした。
母に教えられてから60年を経て、やっと本当の名前を知ることが出来たのです。
「ひめひおうぎずいせん」。「モントブレッチア」では覚えられそうもありませんが、和名なら大丈夫でしょう。
名前を知った嬉しさもさることながら、母の教えてくれた「ひおうぎ」が「当たらずといえども遠からず」であったことに、何か安堵感を覚えています。