百 花 繚 乱 

    

12’4’13
 今年ほど春の訪れを待ち遠しく思ったことはなかったような気がする。 今年の冬は確かに寒かった。 と言っても、昔はもっと寒かったように思うのだが、近年、「地球温暖化」とやらで、暖かいのが当たり前になっていたのかもしれない。 したがって、久しぶりに「昔の寒さ」が戻ったとも言えるのだろう。 台所の水道の凍る朝が結構あったのも久しぶりだった。

 新一年生の入学式は桜の下でという感覚もいつの間にか薄れ、三月中に桜が咲いてしまうことも珍しくはなくなっている。

 私の住む羽村市では、春祭りが四月の第二日曜に行われる。 春祭りでは、八雲神社のお神輿が多摩川に入るのを見るため、見物人が多い。 更に桜の名所とされる羽村取水堰の桜も見頃となれば、大変な人出となる。 桜の咲き具合を語るにも、桜がお祭りまで持つかどうかが話題になる。
 若かった亡夫が玉川神社のお神輿を担いだことがある。 このお神輿は川には入らないが、宮入を嫌うかのように多摩川の土手に下りてきたとき、一陣の風にお神輿が見えなくなるほどの桜吹雪に包まれた様子は、上から見下ろしていた私には忘れられない記憶として残っている。
 近年は葉桜になってしまっているお祭りもある。 寒さが続き、花も遅れていた今年は、まだ二〜三分咲き程度で、お祭りを迎えることになった。  

 桜は、開花から満開まで約一週間という。 しかし、今年は違っていた。 なかなか咲き始めなかったものの、咲き始めてから満開までの時間は例年の半分にも満たなかったようである。 あっという間に満開になった。 開花の遅れている年は花期が短いものなのだそうだ。 待ちに待った花が咲き始め、あっという間に満開になり、それはそれは「美しい印象」を残すことになった。

 羽村には、阿蘇神社という由緒ある神社がある。 多摩川べりの神社の敷地の一部が、昔はブランコのある公園だった。 子供たちは「阿蘇公園」と呼んでいた。 今は遊具はないが、桜と椿に囲まれた小広い草地である。
 秋には銀杏の黄葉や彼岸花が、多摩川をバックに彩を添えるこの場所が好きで、時々カメラを持って出かける。

 桜が満開を迎えた先日も行ってみた。 満開の桜が午後の日差しの中に連なる様は、青い空に美しく映え、見事な景観だった。 椿は、どの木にもびっくりするほどたくさんの花が付いていた。 今年は椿がきれいだとは思っていたが、これほど多くの花をつけるのを見たことがなかった。 我が家の椿も同様、花つきが非常に良いので、今年の気候が椿には合っているのだろう。 めったに人のいない草地には、幾組かの花見客と、写生グループの人たちがいて、いつにない賑わいを見せていた。 

 今年は、梅の開花が大変遅かったので、桜と梅とが一緒に見られそうだと思っていたが、我が家の遅かった梅は一気に美しく咲いたものの、やはり花期は短めで、桜のつぼみが色づき始めると、最後に咲いた豊後梅も早々と散ってしまった。 ところが、あきる野市の都立小峰公園では、桜と梅とが見事に咲いていたのである。
 この公園は、里山の自然をそのまま残している公園で、「桜尾根」と名づけられた尾根道がある。 台風で通行止めになっていたが、修復されたようなので、桜尾根を歩きに行った。 ソメイヨシノではないのか、驚くほどの花つきではないが、大きな桜の木がたくさんあった。 山桜もある。 尾根を歩いて、桜越しに青空を仰ぎ、下に広がる町並みを見下ろすのも楽しかった。 尾根を下ってきて見上げるのも良い感じだった。 下りながら、まだきれいな梅の間を通った。 上の尾根には桜が並び、その下には梅が並び、青空の下、どちらもきれいに咲いていたのである。 こんな年も珍しい。 

 チューリップもやっと咲く始めた。 羽村市の桜祭りも終り、今はチュ−リップ祭りである。 このチューリップが寒さのせいかみんな丈が低い。 そしてまだ咲きそろうには至らない。 桜は桜祭りが終わった今、まだきれいに咲いている。
 今年は花の時期が少し狂っているのに、桜祭りも、チューリップ祭りも例年通りの日程なので、花のない時期に始まり、終わった後も見頃が続いているのである。

 もくれん、こぶし、雪柳、水仙、桜草、かたくり、春らん、にりんそう、ほとけのざ、姫踊子草、はこべ、きゅうりぐさ、すみれ、きらんそう、・・・。 まさに百花繚乱、すばらしい春である。 寒かった冬を我慢して、一気に開いた花々。 北国の春はこんな感じなのだろうかと思う。
 寒い寒いで、日を送り、春になっても、「花」を咲かせることとてないわが身には、いささか寂しいものを感じないわけではないのだが・・・。

[目次に戻る]