鏡平小屋は、新穂高温泉から5・6時間歩いたところにある山小屋です。私たちがお世話になったのは98年8月のことです。
その年は富山、新潟方面には大雨による大きな被害が出ていました。双六小屋で大雨に遭い、動けなくなった私たちは結局そのまま戻ることにして、帰路、予定外の鏡平に一泊したのでした。
「奥さんしっかり食べた?」と声をかけてくれたり、「特別に」と布団を一人一組もらえたり
(一組に二人は当たり前。それ以上のことも。)ザックを上にあげたりと、若くない三人連れに気を遣ってくれました。おかげで、窓から槍ヶ岳が望める最高の場所に布団を敷いて、ゆっくり休むことが出来たのです。
風雨の後のすばらしい眺めを堪能し
(「山のアルバム」を見てね)折から満月まで出るというその晩のことでした。予定を変更せざるをえなかった事情もあり、疲れていた私はすぐ眠りにつきました。
夢うつつの中で「ゆれ」を感じた私は「人が寝ているのだからもっと静かに歩いてくれないかなあ」と思っていました。
翌朝、それがなんと地震だったことを知りました。上高地群発地震の始まりだったのです。
帰宅後、この地震で、槍ヶ岳東鎌尾根で崩落が起き、東鎌尾根が通行止めになったと知りました。アップダウンの激しい東鎌尾根を思い「地震が夜でよかった」と思ったりしました。
それにしてもこの小屋、写真で見るとちょっと危なそうで怖いでしょう・・・。
見事な槍や穂高の姿、うれしかった心遣いとともに、「寝ぼけ地震」で忘れられない小屋の一つになりました。
ちなみに、この小屋はその後新築され、立派な「鏡平山荘」に生まれ変わっています。