「こころ旅」の火野正平さん 

    

12’4’25
 NHKに「こころ旅」という番組がある。 火野正平さんが”チャリオ”と名づけている自転車で、4人のスタッフともども旅をする番組である。 視聴者からの手紙を手がかりに、その人の「心に残る場所」を尋ねていくという趣向だ。 自転車を袋に入れて肩にかけ、電車やバスに乗ることもある。  現在は千葉から関東を経て北海道に至るシリーズで、15分の朝版を楽しみに見ている。 長い週末版も楽しいのだが、11時から1時間の放映というのは、どうも主婦には不都合な時間である。 昨年春から始まった番組のようだから、ほとんど全部見てきたことになる。

 火野正平と言う俳優のことを、私はよく知らなかった。 どんな演技をし、どんな歌を歌うのかは今もよくは知らない。 ただ、若いころ、よく浮名を流していた人だったという印象だけが強い。 私としては、あまり良い感じを持っていなかったので、何で、この人がそんなにもてるのだろうとは思ったが、それ以上の関心はなかった。  
 現在62歳だそうだが、先だっての放映では、街中で年配の人から「プレイボーイも年をとったな」と言われていておかしかった。

 目的地に到着するまでに行きあう人との交流も面白いし、火野正平と知って喜ぶ人、まったく知らない人と、さまざまなのも愉快である。 年配者でまったく知らない人との会話の後で、「オレは売れてない」とつぶやいたり、沿道の人から「頑張って」と声援を受けたり、「待っていた」と、抜け目なくカメラを持ち出す人など、さまざまな人間模様も楽しい。 

 手紙の主が、子供のころ遊んだお寺だとか、思い出の夕日の海だとか、それぞれが「忘れられない思い出の地」に「代わりに行ってください」と言うわけである。 特に有名な場所と言うわけではない。 普通の人の日常生活の中の「思い出の場所」である。 その何気ない「他人の思い出」に触れ、共感することができるのだ。 目的地について、見て回り、「○○さん、来たよ」とさりげなく発する言葉に、火野正平さんの人間味が出ていると思う。

 自転車だから、坂道は当然きつい。 「坂道でごめんなさい」と言う文面も多いが、坂のまったくない場所も少ないから仕方のないことだろう。 ハァハァと、息を切らしてこいでいる姿には、気の毒とは思いながらも親しみを感じる。 それに彼はどうやら、かなりの「高所恐怖症」らしい。 橋の上が嫌いで、特に高い橋は苦手と見えて、自転車を降りて渡って行く様子には笑ってしまうのだが、飾らぬ人柄がそこここに表れている。 展望台に登りかけて、「大丈夫ですか」とスタッフの声が入ったこともあった。

 昔のプレーボーイも確かに年をとり、頭はツルツルだし、無精ひげ?はごま塩だ。 毎日変わる個性的な服装も、結構楽しませてくれる。 左右で色の違う長靴などは彼ならではのものだろう。 ヘルメットの下の帽子も視聴者に結構人気があるらしい。 

 いろいろなことをよく知っているし、さりげない気配りもできるし、礼儀正しいし、ユーモアもある。 この番組を見ているうちに、火野正平と言う人に対する印象がすっかり良くなった。 昔、浮いた話の多かったのは、この人が手を出したというよりも、周りの女が放っておかなかったのかもしれないなどと思ったりしている。 名うてのプレーボーイだったのに、悪評はなかったというのも、その人間性を示すものと言えるのかもしれない。 人間、年をとるのも悪くはないなと思わせる人の一人であることは確かだ。

 それにしてもNHKは、番組にふさわしい人をよくも見つけ出したものである。 ささやかの朝の楽しみになっている番組だが、火野正平さんの嫌味のないキャラクターに負うところ大と言えよう。

 火野正平さんとスタッフの皆さんに、事故のないことを祈りつつ、「カンパーイ」。

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