こ た つ

    

11’12’12
 長年慣れ親しんできた我が家の掘りごたつを、この冬を前にしまった。 「ダイニングこたつ」なるものに替えたのだ。 

 娘が病気の後遺症で、掘りごたつへの出入りが大変になり、去年の冬は、椅子に座ってこたつに足の先だけ入れていた。 食事もこたつなので、椅子に座って食事をするには「低すぎるテーブル」だったが、特に文句も言わず、体をかがめながら食べていた。
 暖房は娘用にはエアコンを付け、私はやはりこたつが良いので、こたつも使っていた。 エアコンの使用は、娘のいる朝晩と休日だけだったが、電気のメーターはかなり上がっていた。 エアコンは暖かいが、部屋が乾燥するので、加湿しないと、のどが痛くなる。 加湿器を買うことはせずに、洗濯物を乾かしたりしていたが、私は音も気になり、あまり好きではない。

 夏には原発の事故から、節電せざるを得なくなり、寒くなっても、こたつとエアコンを使い放題と言うわけには行かなくなることが予想されていた。 我が家では夏よりも冬の方が電気を使う生活である。

 東日本大震災以来、地震も多いし、東京もいつ大きな地震がきてもおかしくないと言われ、更に至近距離の立川断層の危険度も上がったと言うから、娘を無理に掘りこたつに入らせるのも、いざと言う時に心配だ。
 あれこれ思案して、盛んにチラシに載る「ダイニングこたつ」はどうだろうと考えるようになった。 我が家で使うとすれば、「ダイニング」ならぬ「茶の間」である。 敷物を敷いたとしても、出入りに椅子をずらすのはちょっと問題がありそうに思えた。 しかし、「椅子の上だけが回転するようにできている」と言う。 「なるほど」である。 

 何はともあれ、実物を見てこなくてはと、秋になって見に行った。 一人用と二人用があり、椅子は肘掛があって、下にキャスターが付いているものと、キャスターなしで、肘掛もないものとがあった。 椅子の足部分から熱が逃げないように板張りになっていたり、椅子の背もたれと同じ素材のものを巻きつけるようにできていたりと、工夫は見られるが、やはり掘りごたつとは違いそうだった。
 熱源は足元ではなく、上部である。 ファンで熱が全体に回るような仕組みらしい。 椅子のキャスターは要らないが、よく居眠りをする娘には肘掛付が良さそうに思えた。 掛け布団は四隅に別布のマチが入っている。 布団の柄は垢抜けないと思ったが、上掛けを掛けるから、まぁいいか、と、結局二人用を買うことにした。

 店からの配送日が決まったので、あらかじめ頼んでおいた大工に連絡をした。 掘りごたつ分の畳は大事にしまってあったが、床板を、また必要に応じて簡単にはずせるように工夫してもらった。 掘りごたつに使っていた敷物を敷き、真ん中に置炬燵の下敷きにしていた薄い布団を重ねてどうにか準備完了。 

 寒くなり、いよいよこたつとして使うようになった。 下掛けも、上掛けも新しいものにして、気分を変えた。 掘りこたつよりも温める容積が多い上、熱源が足元にはないから、脚の裏側がなかなか暖かくならない。 熱の逃げる率も高いだろう。 しかし、温まってしまえば、なかなか快適である。 何といっても出入りが楽である。 椅子の「回転」が良すぎるための、落ち着かない感じにも慣れてしまった。
 ただ、「二人用」と言うのは、「向かい合う二人」を想定したものらしく、我が家のように隣り合って入ると隙間ができやすい。 しかし、テレビを見るにはこれが一番だ。 一人の時には設定温度を下げるほど暖かくなる。 必要はないと思った椅子のキャスターも、掃除の時には便利だったし、敷物を敷いたので、「動きすぎる」こともなかった。

 掘りごたつよりも電気を使うのかもしれないが、東電の領収書を見ると、「昨年より27%減」だそうな。 昨年は、こたつとエアコンの両刀遣いだったのだから当然だろう。 今年は石油ストーブを、朝晩、こたつと併用している。

 「こたつは暖かくていいね」と言う娘を見ていると、これでよかったのかなと言う気になる。 実のところ、娘のためと言うよりも、齢を重ねていく私自身にとって、一番良かったのかもしれないのである。  

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