コ タ ツ 布 団 カ バ ー 

08’11’23
  冬支度の時期になっていた。 掘りゴタツの周りに敷いていたマットがボロになり、真ん中が十文字に切り込まれて、コタツの中に三角の部分が垂れる、今まで使用のものと同じスタイルのマットを探したが、去年はとうとう見つからずじまいで、今までのボロを使うことになった。 このスタイルが暖かくて気に入っているのだが、あまりスマートではないのも確かなので、人気がなくなったのかもしれない。
 今年も見つからないだろうと思っているうちに、「通販」にはあることを知り、選択の余地もなさそうなので、それを購入した。 「ゴブラン織り」との触れ込みなので、古い我が家には合うかどうか気になったが、届いた品物を広げてみると、「それなりに」使える品物だった。 敷物は出来た。

次はコタツ布団である。 布団は、以前、何かのお返しでいただいたものだが、長年使っているので、正方形が少々変形したようで、四隅は良いが、四辺が直線ではなく、曲線になってしまっていた。 更に、一緒にいただいたカバーの裏地がすっかり弱って切れ掛かっている。 手をかけて引っ張るのだから、それなりの力もかかろうと言うものである。
 今年はとりあえず、カバーだけは新調しようと思っていた。 お使いがてら、コタツカバーを寝具売り場で探しながら、布団のサイズを確認してこなかったことに気づいた。 大は小をかねるとは言うものの、カバーだけが大きいのも使いにくいので、「またのことに・・・」と帰ってきた。

 古いカバーに包んだコタツ布団を出して、ボロカバーを大風呂敷代わりにするのも、なんだか貧乏くさいから、これは処分しようと思った。 これを捨てるには五十センチ以下に切らなくてはいけないのが、少々面倒に思えた。
 広げてみると、裏はボロだが、表はしっかりしている。 下掛け、上掛けをかけ、更にコタツ板を乗せて使うのだから、中央部分が傷まないのは当然かもしれない。
 既製品のカバーは、デザインも凝っていて、鏡仕立ての布団風のベイズリー柄で、それに裏地が毛抜き合わせになっている。
 この真ん中部分は「何かに」使えそうだと、またまた私の貧乏性が頭をもたげた。 カバーを探しに行くのはやめて、これを使って作るか、と思う。 そこで思い出したのが、「着物の裏地」のことだった。

 私の荷物の中に、着物の裏地が二枚分あるのに気づいたのはいつごろだろう。 結婚するときのどさくさにまぎれて入り込んだものなのだろうか。
 とにかく、時代物には違いない。 まさか大正のものでもあるまいと思うが、昭和のはじめごろのものだろうか。 いずれも紺色で、古いとはいえ、綿の新品である。 一枚は今時目にすることもない”古典的な絵”の描かれた紙の箱入り、一枚は厚い紙にくるまれたもの。 箱入りの方が目の積んだ生地で、いくらか品が良いように思えた。 幸い、生地自体はまだしっかりしていた。
 「何かに使えるだろう」と思ったものの、使うチャンスもなく、更に五十年近くが過ぎてしまったわけである。 着物が、生地として売れる、と聞いたこともあったが、無地の裏地では、「生地として」でも無理そうに思えた。 さらに、おそらく、母が使うつもりだった生地だろうと思うと、処分してしまうのも気分的に、はばかられるのだった。

 色が合うとはとても思えない組み合わせだが、上掛けをかけてしまえば見えないし、とも思う。  二枚分の裏地ではあるが、コタツ布団の大きさを考えると、果たして足りるかどうか分からない。 一応計って、だめなら考えようと、裏地を出して計算にかかる。
 着物地だから小幅である。 紺色と言っても二枚の色が微妙に違う。 かなり「つぎはぎ」の感じになりそうだ。 しっかりしていると言っても、表地も周囲をかなりカットするようだから、額縁に仕立てなくてはならない。
 何度も計算して、額縁を二十センチ幅にしてどうにか間に合うことが分かり、早速、切ったり、縫い合わせたりの作業に入る。 直線縫いだが、とにかく縫う距離が長い。 色は気にせず、ファスナーも古いものにアイロンをかけて、使ってしまった。

 昔だったら縫い直しただろうと思う「曲がり」も、今は「まぁ、いいか」である。 それでも、「今夜から急速に気温が下がる」、との予報に追い立てられるようにして完成させた。
 コタツ布団にかぶせてみると、二枚の裏地の微妙な色の違いも、生地の差も、額縁の部分だけを見たのではあまり目立たず、黙っていれば気にする人もなさそうだ。 水通しもせずに使っているので、洗濯をしたらどうなるかが問題ではあるが、この冬のコタツ問題は一応一件落着である。

 下掛けだけで幾日か使ってきたコタツだが、布団をかけると暖かさが違う。 「きれいに出来たねぇ」、と娘が言う。 私は布団カバーの完成よりも、裏地を使うことの出来たことがうれしかった。
 なんだか、母に申し訳が立ったような気がしていた。  

[目次に戻る]