08’4’13
川に入る時間は十一時とされており、昔は確かに十一時ごろだったが、年々遅くなり、今日は十二時を過ぎていた。 今年は十一時半ころに家を出ればよいと考えていたが、太鼓やお囃子が聞こえてくると落ち着かなくなる。 我が家で最もお囃子が近くに聞こえてくるのは、対岸にお神輿があるときなので、それから一時間くらいしないと川に入ることは無いとは分かっているのに、である。
大体、お祭りのような、にぎやかなことがあまり好きではないのだが、カメラにのめりこんでからは年に一度の面白い被写体である「神輿の川入り」を結構楽しみにしている。
今年は小雨が降ったりやんだりのあいにくの空模様で、川に入るにはちょっと寒そうな日になった。
昨秋の台風による、例を見ない大雨の影響で、多摩川の両岸はえぐられ、川幅が広くなっている。 そこへこのところの雨続きで水量も多い。 かなり深そうでもある。
例年、深みに入り、担ぎ手がお神輿を離れて泳ぎだしたりする場面もあって、見物人を喜ばせているのだが、危険を伴うのは言うまでもない。 今日は消防署のゴムボートも用意され、ロープを手にした消防士が中州に待機していた。
いったん対岸に渡っていた子供神輿が、再び橋を渡って戻ってくる。 子供が渡るには危険な水量なのだろう。
戻ってきて浅瀬に形ばかり入った。 みんな透明なビニールの合羽を着ている。 小雨が降り、肌寒いから、親も気が気ではないだろう。
私は今年も左岸に場所をとっていた。 四つ折にしたビニール風呂敷の上に、いつもカメラを入れているキルティングの手提げ袋を座布団代わりに置いて腰をおろし、大人の神輿が対岸の土手をあがってくるのを待つ。
対岸の町内を回り、休憩の後、土手を下って、それから川に入るのだから、待つ身には結構長い時間に思える。
太鼓とお囃子が橋を戻ってきてから、ややしばらくしてやっとお神輿が土手に現れた。
お神輿は中州に沿って進んでくる。 対岸にはケーブルテレビの撮影クルーがいる。 そのテレビカメラの前で、盛んにパフォーマンスを展開している。 中州にいる、ぞろりと長いはっぴ姿の関係者も、見物人に拍手を要請したり、自分たちもやけに盛り上がってみせる。 お神輿も盛んにもんでいる。 かなり遠い。 望遠ズームのレンズをつけて来てよかった。 毎年同じようにしか撮れないので、今年は担ぎ手の表情を狙うつもりで来たのだけれど、300ミリにしてもファインダーにほぼお神輿全部が収まる距離である。
例年通り、そのうちにこちらの方に回ってくる、と誰もが予想していたに違いない。 ところが、こちらには回っては来ず、そのまま中州に上がって再び水に入ることなく終わってしまったのである。 こちら側にいた多くのカメラマンの期待は完全に裏切られた形だった。 「テレビカメラの前だけか」と言う声がそこここで聞かれた。
一昨年のお神輿はサービスがよかった。 「こっちに来て〜」の声に応じて、公平に何度も回り、疲れ果てた態で引き上げるときには、見物人から「ありがと〜」の声が飛んだのだった。 今年はすっかり白けてしまった。
テレビカメラの前に飛び出してVサインする子供の姿は、よく目にするところである。 結構な大人でさえも・・・。 そんなにしてまで、テレビに映りたいものかと思って見ている。
そういう世代がお神輿を担ぐ年になったと言うことなのかもしれない。 引き上げていくお神輿の姿にカメラを向ける気にもならず、早々と帰ってきた。 五分もかからずに行ける私だからいいようなものの、遠くから来た人には気の毒な今年の「神輿の川入り」だった。 私も真正面から撮った写真の少なかったのはちょっと残念だったが、これは腕のせいだから仕方が無い。
まぁ、これで、一同無事に暮らせるのであれば、それはそれでまことに結構なことである。 それが、本来の「川入り」の意義なのだろうから。