モグラと三面鏡

04’11’10
 阪神大震災の後、地震対策として、家具を固定しようと言うことが盛んに言われた。しかし、我が家ではどう考えても無理なので、とりあえず、寝る場所に倒れてきそうな大型の本箱などを移動したりした。だが、いつ来るか分からない地震のために、毎日の生活があまり不便になっても困るので、三面鏡だけは枕元におくことになった。
 三面鏡の下敷きで命を落とすこともなかろうとは思うものの、鏡が割れて怪我をすることは十分考えられることだった。そこで寝る前には鏡をたたんで紐で縛っておくことにした。ところが、これが意外に大変なのである。うっかり忘れて布団に入ってしまう。寒い時期ではあるし、「モグラも無事だから」今夜は大丈夫だろうと、つい怠けてしまうのである。
 地震の予知と言うことに関しては、私は長年の経験から、失礼ながら予知連絡会よりも庭にモグラのほうを信じている人間である。
  昨年末から今年にかけて、私の住む羽村でも大変地震が多かった。お正月前後、本気で心配するほど度々、庭のいたるところでモグラが土をもち上げた。この三十数年、これほど広範囲にたくさんもち上げた例はなかった。そしてそのつど、大きくはないが、いわゆる青梅地震と言われる一連の地震があったようだ。
 庭のモグラも最近はすっかり鳴りを潜めており、私も相変わらず三面鏡を縛らずに寝てしまっている。この平穏な日々がいつまでも続くよう願うこと切である。

 この文章を書いてから十年になろうとしている。そして今年は、新潟中越地震に見舞われた。 
 最近は庭のモグラもいないのか、土をもち上げることもなくなっている。私の「予知動物」はどこに行ってしまったのだろう。中越地震では、少し前からモグラの動きがおかしかったと聞く。やはり予知のできる動物だと思うと、姿を見せないのも不安なことである。
  


[目次に戻る]