お 盆 休 み  

 

10’8’13
 お盆休みである。 東京生まれの私は、お盆は七月だと思ってきたし、今、私の住む羽村のお盆も、例年七月十三日のわが家の菩提寺を皮切りに、各寺寺を巡る「施餓鬼会」が始まる。
 しかし、他県ではいわゆる旧のお盆が多いと見えて、「お盆休み」と言えば、八月十三日からのお盆を指すようである。 羽村のスーパーには、七月のお盆にオガラやお供え用の盛り籠が並ぶが、八月にもまた少し並んでいる。

 今年もお盆休みの帰省ラッシュのピークは十三日、ユーターンラッシュは十五日とされている。 「お盆休み=夏休み」で、会社の夏休みはこの時期に集中すると見えて、市内の幹線道路からは大型車がほとんど姿を消している。 一方、毎度のことながら、高速道路の渋滞風景が、繰り返し放映されている。 
御岳小橋

 私自身は夏休みもほとんど関係はないのだが、娘が夏休みで、家にいるので、「食べさせる」用事が増える。 せっかくの休みだが、昨年の脳梗塞の後遺症で身障者の仲間入りをした娘の状況では、旅行などはちょっと無理と言うもの。 
 本人にあまり頑張る気がないこともあって、長距離は歩けないし、歩く早さも人の半分以下だ。 エスカレーターも危ないし、階段も駄目となると、出先は限られる。 疲れると足元が心もとなくなるので、私も無理には歩かせなくなってしまう。 歩くことをあまり苦にしない私だが、娘のペースにあわせて歩くと、ひどく疲れる。 そんなわけで、ちょっとした買い物以外は一緒に外出することがなくなっていた。

 しかし、十日間の夏休みだ。 少しは普段と違うこともしてやりたいと思う。 食べることは好きな娘だが、カロリー制限、塩分制限のある食事は難しい。 あれこれ考えた結果、白羽の矢を立てたのが、御岳にある「豆腐料理」の店だった。
 店内のどの席からも御岳渓谷といわれる多摩川の景観が楽しめる。 うまく、カヌーの練習でもしていれば、それも面白そうだ。 そこでのんびりと食事をして、気分転換をはかるのもいいのではないかと考えた。 私としては、川沿いの遊歩道をどんどんさかのぼれば、本当に楽しいのだが、それを娘には望むべくもない。 
御岳小橋下流ではカヌーの練習
 

 娘は、「豆腐料理」には、さほどの魅力はなかったようだが、「すごいご馳走とは思わなかったが、おいしかった」そうで、「思ったよりは・・・」と言う感じだったらしい。 いろいろな豆腐料理が小奇麗に並んではいたが、所詮、豆腐は豆腐と言うことか。 私には結構おいしい料理だったが・・・。
 カロリーには目をつぶって、デザートに冷たい白玉汁粉も賞味してきた。
 店から出て、川べりのベンチで「ここは景色がいいねぇ」と娘が休んでいる間に、私は写真も少し撮った。 カヌーの練習も少し下流ではやっていたが、娘のいるベンチから見える場所ではなかった。

 ドライブがてら奥多摩の周遊道路を一周して来るのも良いかと思って出かけたのだが、娘が、帰ろうと言うので食事だけして帰ってきた。 帰り道、途中から雲行きが怪しくなり、家に着くと間もなく雨になった。 「帰ってきてよかったね」と娘は言ったが、私は気分的にいささか物足りなさを感じていた。

 御岳は家から三十分程度で行ける場所で、私はちょくちょくカメラを持って出かけるのだが、岩を噛んで流れる清流を目前にしながら、川原へ下りなかったことがちょっと残念に思われた。 と同時に、娘の夏休みを、必ずしも喜んではいないように思えた食事で、「お茶を濁してしまう」ことにもいささかの後ろめたさがあった。 

 しかし、とにもかくにも、娘に対する私の「夏休み特別サービス」は、きわめて“あっさりと”終了したのであった。 夜、娘は作業用のエプロンをバッグに入れて、早々と休み明けの出勤準備をしていた。   

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