奥 多 摩 の 山 (鷹ノ巣山と大岳山)

 
06’5’11

 山好きにとって、山へ登ることは楽しいには違いないけれど、苦しいことであるのも事実である。 山へ行く約束をして、それがハードな山の場合には、前の晩になって、「明日、雨ならいいな」と思うほどだ。 おかしな話である。
 月に一度のハイキングクラブ定例の山行は、常連もほぼ決まり、毎回10名前後の参加者がある。 長い付き合いで親しさも増し、毎月楽しみにしているはずなのに、雨を願う気持ちは同じである。 しかし、寝ていたい欲求に負けてしまえば後悔するは必定。 逆に、どんな大雨に遭おうと、山で行った事を後悔したためしはない。 だから、大雨でない限りは、予定時刻にとにかく起きる。
鷹ノ巣山にて

 今月も、予報は雨だし、ハードな鷹ノ巣山(1736.6m)だし、朝の5時25分の電車に乗るには、前日に用意万端整えたとしても4時には起きなくてはならない、となると迷いも生じようというもの。 しかし、雨は降っていないし、雲に切れ目はあるし、とにかく駅に向かった。
 今まで、誰もいなければ帰ってこようと思いながら行った駅に、誰もいなかったことはない。 少しの雨でも「行ってみるかな」と出かけると、誰かしらいるのだから面白い。 「迷ったけれど雨だったから・・・」と悔しがることはしたくない。 
 今回、下界では大雨だったらしいが、山の上では、午前中は薄日も漏れ、午後も何度かパラリと来た程度で、結果的には8人で無事に登ってきた。 「誰もいなかったら帰ろうと思った」と、全員同じせりふを口にして。   
みつばつつじ

 私は、奥多摩でもっともハードな山は鷹ノ巣山だと思っている。 初登りは、子育ての一段落した30代後半の頃だと思うが、そのときに「私にはきつすぎる」と思ったものだ。 しかし、魅力もいっぱいの山で、結局は、その後何度も登ることになった。
 頂上の木立に霧が流れる幻想的な風景。 目の前に広がる大パノラマ。 お花畑にアツモリソウの鮮やかなピンク色を見つけたときの感動。 座ってぐるりと一周すれば手に持ちきれないほど採れる蕨。 すべて鷹ノ巣山での経験だ。 大変な思いをするだけのことはある山なのである。

 初登りから30年。 今、お花畑にアツモリソウはない。 蕨もかつてほどは採れない。 霧の流れた木立も後退した。 それでも、谷から湧き上がる雲は美しく、新緑の中に咲くミツバツツジの冴えた色合いには、ため息が出る。
 元気なときでも登り下りに3時間半ずつは見ていた。 それに休憩時間を加えると、日の短い時期には行きにくい。 年を重ねて、歩行時間も何割り増しかに見積もらなくてはならなくなった。
 今回の鷹ノ巣山は正直かなり参った。 この山はきつい、とつくづく思った。 しかし、疲れはしたが、たいした筋肉痛にもならず、そのことでまた、ちょっぴり自信を回復するのだから、我ながら厄介である。
大岳山 (昨年・富士見平から)

 思えば、奥多摩の山にはじめて登ったのは、青梅線沿線の昭島市に職を得てまもなくのことだった。 学生時代の友人たちと大岳山(1266.5m)に行くことになり、確か立川駅に集まることにしていたと思う。 ところが、当日来たのは私と男性のMさんだけだった。
 やむを得ず、二人で登ったのが最初だ。 そのときの山の記憶はあまりないが、二人で写った山頂の写真が残っている。
 はたから見れば、仲の良い恋人同士に見えたようで、からかわれたりして、喜んでいいのか悪いのか分からない、と笑ったことだけは覚えている。 昭和30年代も初期の話である。
 快活なMさんとは親しいクラスメートではあったけれど、「そういう関係」ではなかったし、「それがきっかけで」ということにもならなかったが、懐かしい思い出である。

 大岳山はその特異な山容から、どこから見てもそれと分かる山で、奥多摩のシンボル的な山だ。 奥多摩の山のなかで、一番回数多く登ったのも大岳山だろうか。 残念ながら鷹ノ巣山からはそろそろ卒業だ。 私の奥多摩の山歩きの締めくくりは、振り出しに戻り、この思い出の山、大岳山にするのも良さそうだ。
 その日が少しでも遅からんことを願うのは言うまでもないことである。

(山のアルバム・2 「06鷹ノ巣山」もご覧下さいね)
 

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