風のおわら

03’10’3
 9月28日付の新聞に、『哀愁の音色多摩川に響く・羽村で「越中おわら風の盆」』と掲載されたように、9月27日夜、我家から遠くない多摩川河川敷の運動公園で、「風のおわら」という素敵な催しがあった。
 通称「羽村の堰」で、多摩川をせき止めた水を取り入れて玉川上水は始まる。今年が玉川上水開削350周年に当たることを記念して、本場富山県八尾町の「おわら保存会」から22名を招き、披露したというわけである。
 玉川清右衛門、庄右衛門兄弟が、羽村から四谷まで玉川上水を掘削してから350年になるという。「堰の公園」には兄弟の銅像もあり、バスを連ねての社会科見学の小学生の姿をよく見かける。
 いろいろな記念行事の中で、最も期待する人の多かったのがこの「風のおわら」上演であったのは確かだろう。1部2部に分けて発売された有料席券1000枚は1時間で完売したと聞く。その他に無料席と車椅子席があり、あとは立ち見となる。
 家から近いし、「双眼鏡で見ればいいか」と、券も買わずにいた。雨の場合は会場をスポーツセンターに変更して有料席のみということなので、雨なら見られないのを承知で「その日」を待っていた。
 当日の天気予報は良かったのだけれど、ちょっと雲行きが怪しかった。午後5時、八尾から運ばれた雪洞の並ぶ、通称「大正土手」の上を、保存会の人と羽村市内の民踊会の人たちが、舞いながら流すことで始まった。「選りすぐりが来ました」というだけに保存会の人たちの舞はまことに美しく、特に手の動きがきれいだった。若い男女で姿もよく、感動的だった。土手下にはカメラマンが多数押しかけていたが、土手の上というのはなかなか良い場所で、どこからもよく見えたのは幸いなことだった。市内の民踊グループは体形がやや太めで、舞も「イマイチ」の感があったのはご愛嬌というところだ。
 続いて特設ステージで本番が披露された。 三味線と胡弓だけの演奏に始まったのだが、これは本場でも「絶対」というほど演奏されることがないとのことだった。その理由は「人」。風の盆も今や人気の観光の目玉となって、人が多すぎて演奏が出来ないのだそうである。2万ちょっとの人口の町に今年は観光客23万人が押しかけ、嬉しいような悲しいようなとは保存会会長さんのお話である。「四季の舞」で、男女の踊り手がゆったりと舞うさまは、さすがに伝統の重みを感じさせる、心に響くものだった。  
 満員の立見席の最前列に陣取り、大きく映し出されるスクリーンを見たり、双眼鏡で見たり、十分堪能できた。デジカメで写真も撮った。第1部終了後家に帰りすぐパソコンに取り込んで見ると、思ったより「写っている」。そこでまた第2部にも出かけることにした。5分とかからずに行ける「地の利」である。
 小雨がぱらつきだし、第1部の物凄い人出とは異なり「無料席券」がもらえた。ところが座ると見えにくい。写真を撮りたいのでまた立見席に行く。今度はガラガラだ。途中から雨が強まり、「踊り」の終わった時点で席を立つ人が続き、「踊りの指導」部分が第2部でははしょられた。「また来年にでも・・・」と言われたことで、「毎年来ることになる」との噂が本当なのかなと思ったりした。私も傘を持たなかったので帰りかけたとき、数発の花火が打ち上げられフィナーレを飾った。
 バスで来た団体もかなりいて、いつも散歩する土手が歩けないほどの人で埋まったのには驚いたが、前々から準備に当たった関係者には嬉しいことだったろう。主催者側の発表では1万5千人の観客だったという。ずらりと並んだ「模擬店」の売れ行きも上々だったと聞いた。
 羽村市と八尾町に共通の企業があって、そこの橋渡しで実現した催しだということだが、思いがけず、素晴らしい伝統文化に触れることの出来た一夜だった。羽村市もなかなか「やるもの」である。

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