08’4’28
キリンがサーカスに登場するのを見たのは初めてだったが、背が高いのでお洒落なゲートをくぐってとは行かず、テントの一部を開けたところから出てきたのがおかしかった。 外の光が入って、ものすごいほこりが浮かび上がったのはとんだおまけだ。 どんな演技かと思ったら、観客にバナナだろうか、食べ物を与える役をしてもらって終わった。 小さな子供の手元まで首を下げるのが「大変な演技」なのかもしれない。
4頭のシマウマはよくそろった団体演技を披露した。 しっかり訓練されているものだ。 おとなしい性格なのだろう。
やがて、ピエロが円形の舞台の前で観客を笑わせている間に、舞台上には手際よく頑丈そうな金網が張り巡らされ、円錐形の屋根も乗り、猛獣ショーの始まりだ。
たてがみも華やかなライオンが4頭、大小のトラが4頭、ライガーが2頭登場した。 ライガーの性格には、二説あって、ライオンとトラの獰猛性を引き継いでいるとする説と、性質は温和でおとなしいと言う説があるらしいが、この2頭からはおとなしそうな印象を受けた。
ぐるりと並べられた椅子にライガーを中心に、左にライオン、右にトラがそれぞれに1頭ずつ乗る。 どの猛獣たちの動きも、なにやらけだるそうだ。
猛獣を一度に10頭も操るのだから、調教師の腕は確かなのだろう。 世界的にも有名な人との解説だった。
調教師の長い鞭が床を打ち、バシッバシッと鋭い音が響く。 長い棒も持っている。 そろって反抗されたら・・・と言う心配はないものなのだろうか。
椅子に1頭ずつ乗っているだけのことでも、大変なことに違いない。
どういういきさつで、このサーカス団で生活することになったのかは知らないが、猛獣としてはかなり変わった生き方である。
仲間が並んだ上を飛び越えたり、火のついた枠の中を跳び越えたり、ハムスターではあるまいに輪の中に入って回したり、ワンちゃんよろしく「ちんちん」の格好をして見せたり、彼等としては、はなはだ不本意なことかもしれない。
寝そべった状態からお腹を見せて回転したのにはちょっとびっくりした。 お腹を見せることは動物にはまったくの「無防備体勢」なのだから、仮にも猛獣に生まれた彼等がそれをして見せることに驚いたのだ。
最後には10頭が一緒に「ちんちん」スタイルで咆哮して幕という筋書きだったのではないかと想像するのだが、なかなか言うことを聞かない。 それで、ライオンだけ、トラだけ、となるのだが、中にはやはりサボるのもいる。
感心したのは、調教師が絶対に「サボらせたままではおかない」と言う点だった。 徹底的に服従させる姿勢が感じられた。 猛獣たちが調教師を恐れているのも分かった。 そうでなくては猛獣の調教などできるわけがないであろうことは、想像に難くないところである。
登場したときとは違い、演技が終わって1頭ずつ楽屋に戻っていくその足取りの軽さが、とにかく印象的だった。 楽屋と言っても狭い檻の中であるはずなのに、いそいそと戻って行った。 百獣の王としてのプライドも役には立たず、客のご機嫌をとる生活をどう思っているのかと、ライオンにはちょっと同情した。
動物愛護団体からクレームがついた話も聞かないが、そんなことを考えながらサーカスの動物を見ている人間はやはり珍しいのだろうか。
金網が片付けられた後の、象2頭の演技は、楽しく見ていられた。
私は、おとなしい動物が可愛い演技をしてくれるほうが、どうも好みに合うらしい事を、今回図らずも発見したのだった。