05’10’25新聞の片隅に、「佐伯祐三展」の文字を見つけた。 チェックは怠らないつもりだったのに、見落としていたらしい。 場所は練馬区立美術館。 もう一ヶ月も前から開かれていたのだ。
私が佐伯祐三の絵を初めて見たのは、大学生になってからだったと思う。 ユトリロから「日本のユトリロ」を知ったのか、その逆だったのか、今となっては記憶が定かではない。 以来、佐伯祐三の荒削りとも見える画風が好きで、可能な限り展覧会には足を運んできた。
学生時代には、「佐伯祐三」に限らず、午後の授業をサボってまでも展覧会を見に行っていたし、足に任せて、休日には美術館やデパートを巡り、「展覧会の梯子」をするのが楽しみだった。
さすがに年を重ね、最近では厳選した展覧会だけに行くようになってきた。
ひところの美術館ブームで、近くにも美術館は増えたが、”見たい展覧会”はめったにないし、好きな絵描きさんの作品にしても、”好きな作品”が見られることはなかった。 それだけに、「佐伯祐三」がさほど遠くない場所で見られるとは思いもしないことだった。
会期も残り少なくなってやっと行けた。 大体、展覧会は会期末ほど込み合うものである。 開館と同時に入館するのが一番である。 と言うわけで、10時の開館前には着くように出かけた。 幸い天気もよく、予定通り、その日最初の入館者となった。なかなか雰囲気の良い美術館だった。 次第に込んできたとはいえ、そこは都心の大きな美術館とは違い、人の肩越しに見るというようなことはなく、静かに心行くまで絵の前にたたずんでいられるのがうれしかった。 「郵便配達夫」、「ガス灯と広告」、「ロシアの少女」など、お馴染みの作品が、目の前にあった。 下落合在住当時の作品など、初めて見るものも多く、疲れれば、中央に置かれた「ふわふわいす」で休みながら眺められた。 愛用品の柳行李のトランクが二つ展示されていたのも珍しいことだ。
開館20周年記念の展覧会だったが、有名な絵を集めてあるだけに警備は厳重で、そのことがむしろ安心感につながっていた。 声高にしゃべる人にはその警備の人たちが、それとなく注意してくれていたようで、本当に静かに絵を見ることができた。 ちなみに、高齢者割引で入場料はわずか300円、75歳以上は無料である。佐伯祐三の生涯は30年とあまりにも短く、私生活も幸せとは言い切れなかったようだし、その死を巡っても取りざたされるが、もし元気に生きていたならば、20年後、30年後にはどんな絵を描いていたのだろうかと、早すぎた死を残念に思う。
前にも買ったかも知れないと思いながら、「ガス灯と広告」、「リュクサンブール公園」、それと1923年の「自画像」の、絵葉書三枚を買った。
それにしても我が家から「疲れずに行ける」場所で、好きな作品を見られるとは、よき時代になったものである。