寝台車


03’10’26
  寝台車に乗るのは、何年ぶりのことだろう。十年位前に北海道から「北斗星」という寝台車で帰ってきたことがあったが、それ以来だ。
 東京から下関に行くといえば、今は飛行機か新幹線を使う人が多いだろう。
 私は飛行機をあまり好まない。離着陸のときの耳の痛さがなんとも不愉快なのだ。「鼻炎のある人にありがち」とも聞くが、確かにアレルギー性鼻炎もある。
 今回は学生時代の同級生三人で出かけ、下関在住の一人と一日目だけ行動をともにする手はずになっていた。こちらから行くメンバーの中に私以上に「気圧の変化」に敏感な人がいたこともあって、あっさり決まったのが「寝台車」の利用である。
 「寝台特急あさかぜ」下関行き。東京19時発、下関には翌朝9時55分着、約15時間の乗車となる。
 とにかく空いていて、ふさがっているのは各部屋とも下段のベッドだけだ。ラウンジで遅くまでおしゃべりをしてベッドに戻ったときには同室の客は高いびきだった。
 二つのフックに着るものと朝食の袋をぶら下げ、小さなテーブル風の台にペットボトルのお茶を載せておく。浴衣、枕、シ−ツ、カバー付毛布が、揃っている。カーテンを引き、横になる。
 通路側を頭にしたものの、通路の明かりといびきが気になるので逆さになる。列車の響きは大きくなるが、無機質な音だし、一定のリズムなので慣れてしまえば気にならないと考えた。義理にも寝やすいとはいえないが、それでも、山に行く時によく利用する「夜行バス」よりは、横になれるだけ楽だと思うことにして、うつらうつらしていた。
 大体、「寝床と ○○は自宅に限る」私なのである。しかし、どこに停まったのか分からないのだから意外に寝られたのだろう。
 同室者が下車して、しばらくしたら広島だった。
 子供のころ疎開先で、「お使いに行く」と言えば、尾道に船で出ていたことが懐かしく、尾道駅だけはしっかり見たいと思っていたのになんということだ。
 朝寝のチャンスだったが目がさめたので起きてしまった。東京駅で準備したおにぎりの朝食を済ますと、あっという間に下関に到着した。
 出口は一つと聞いていた。階段を下りていくと、久々に会う同級生が、改札口の向こうで小さく手を振って出迎えてくれていた。

[目次に戻る]