信 号 機 の ト ラ ブ ル

 
06’3’29
 JR青梅線から中央線に直通する東京行きの電車が一時間に二〜三本ある。 朝から三時頃までは、その中の一本が「青梅特快」で、中央線に入ってからは「特別快速」になる。 少しでも早く都心に出たい人には便利な電車だが、それだけに空いてはいない。

 その日、私が乗ったのもこの「青梅特快」だった。 珍しく優先席に空きがあったので、座ることができた。
 乗ってすぐの車内放送で、中央線四谷、御茶ノ水間の信号機トラブルのため、中央線に入るとこの電車も遅延すると思われるので、あらかじめご了承を、とのことだった。 人身事故だの、なんとかのトラブルだのと、よくあることなので、「やれやれまたか」という感じである。 中央線に入るとほぼ各駅停車。 どの駅にも電車が止まっている状態なのだそうだ。

 この日は、いけばな展に我が家の真っ赤なボケを使ってくださる方があって、その枝を届けるのが目的だったから、途中で引き返してしまうわけにはいかなかった。
 春のいけばな展にはボケを使った作品も多いが、我が家のボケは真っ赤な色が珍しく、広い会場では見栄えもするので、私自身も何度か使ってきた。

 信号機トラブルの件はしっかり分かったけれど、それがいつ復旧する見込みなのかという情報は一切ない。 おまけに駅に止まっていながら、ドアは開かない。
 「特快」なので、停車駅以外ではドアは開けられないのだそうだ。 止まるはずのない駅に止まっているのに・・・である。 なんともおかしな理屈である。
 駅ごとにしばらく止まっては進むことを繰り返した後、「特快」は普通の「快速」に変更された。 そして、ドアも開くことになった。
 私鉄への振り替えを薦める放送もあったが、新宿で小田急線に乗り換えたい私には不便なので、じっと我慢である。 立っている人には申し訳なかったが、座れたことは幸いだった。

 やがて総武線千葉行きに乗り換えられる三鷹駅に到着した。 各駅停車だが、こちらは順調に動いている。 私はここで乗り換えるつもりでいた。
 人間の考えることは同じと見えて、総武線に乗り換えようとする人でたちまち三鷹駅はあふれんばかりの状況になった。 一方、がらがらになった電車は、次の吉祥寺まで参りますとの放送で、また戻る人もいたりで、かなりの混乱である。 そのまま降りた電車は発車していった。

 三鷹は総武線の始発駅なので、ゆっくり座って、外を眺めながら発車を待っていると、中央線の電車が隣のホームに入り、何事もないように客が乗り降りして、発車して行った。 続いてまた・・・。
 総武線の車内からは、「なんだよ〜」の声が上がる。 どうやら信号機のトラブルも解消されて、電車は平常通りに流れ出したらしい。 物事、えてしてこういうものである。

 三鷹から新宿までは快速ならば、途中、一駅止まるだけなのだが、乗り換えた各駅停車では八つの駅に停車である。 当然何台もの快速に追い越された。
 もう少し我慢していればよかったとも思うし、急ぐ旅ではないし・・・とも思うけれど、内心穏やかではいられない。

 二日後、真っ赤なボケと白い水仙がきれいに活けられた作品を都立美術館の会場で拝見しながら、あの「間の悪さ」は、まさに、わが人生を象徴していたと、妙に納得したのだった。   

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