白髪染め

04’10’30
 白髪染めをやめて、五年たつ。若いころから白髪が多く、姉の勧めもあって三十年近く染めてきたが、還暦を過ぎたころからいつやめるかを考えていた。歳をとって動けなくなってから仕方なくやめるのでは、私自身が落ち込みそうなので、元気に飛び回っているうちに自然の髪に戻しておこうと決めていた。
  五十代半ばから、白血球の減る現象が続き、感染症への抵抗力が心配だと、専門医を紹介された。そのまま進めば「再生不良性貧血」だが、その手前でとどまっている状態とのことだった。しかし、幸いなことにもう十年の上同じ状況なので、最近は血液検査の間隔もあき、まったく意識することなく登山もするし、元気に暮らしている。
 毛染め用のヘアカラーで貧血を起こすケースがあると、以前耳にしたことがあった。因果関係は明らかではないらしいが、やめるに越したことはないと主治医にも言われていた。とはいえ、白髪と染めた部分との「三毛猫状態」で出歩くことを考えると、ためらいもあった。 
 ちょうどそのころ、視力が衰え、車の運転に危険を感じるようになったので、白内障の手術を受けた。その直後に結婚式への招待や、法事などが続き、本来ならば、髪もきれいに染めたいところだったが、角膜を痛めるといけないからと、ドクターストップがかかった。やむを得ず、洗えば落ちるカラースプレーでごまかしながらこなしているうちに、ここまで我慢してきたのだから、この機会にやめてしまおうと思うようになった。
 当時は茶髪だの、金髪だの、中には白髪のような白いメッシュを入れるお嬢さんまでいたのだから、私の三毛猫ヘアーもそのままで「超今風」だったのかもしれない。 
 半年ほどたち、白髪の部分が多くなったので、スプレーも止めた。へアースタイルも短めに変えてみた。突然白髪になったのでびっくりする人もいたようだが、自然のままも案外いい感じだと自分では思っていた。 
 かえって若々しいとか、白いのも素敵だとか、うんとおしゃれをしたらとか、果ては電車で席を譲られるかもとか、周囲の反応が面白かった。着るものも中間色が似合うようになり、今までとは違ったおしゃれが楽しめるかと思ったのだが、元来しゃれっ気がないので、これは思っただけで終わりになった。
 ファッション関係の記事に、「ロマンスグレーの人は染めずに生かして」とあって、「わが意を得たり」と思ったものだが、私としては結構勇気の要る決断だった。やってきた息子は「誰かと思った。何でやめたのよ」と言うし、大反対だった娘は「お母さんの白髪は素敵ね」と言ってくださる方があったおかげで納得したようだ。 
 行動予定にあわせて染めたりする手間もなくなり、パーマも止めてカットだけの現在である。楽なことこの上なしだ。「白髪が似合う」と言われるけれど、似合うも似合わないも、まったくの自然のままなのである。
 希望する「純白」にはなりそうもないけれど、髪の色も「自然が一番」ということらしい。

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