市のコミュニティーセンターの地階出入り口は、駐車場への近道なのでサークル活動の時によく利用している。
梅雨さなかのその日も、小雨が降っていた。四時を過ぎ、遅くなったなと思いながら地下への階段を下り、戸口へ歩を進めていたとき、私は滑って転倒した。一瞬何が起きたのか分からなかった。左のひじと左側頭部をしたたかに打った。しびれる左腕を曲げたり伸ばしたりしてみた。骨には異常がなさそうだが、頭を打ったのが少し不安だった。とにかく早く帰ろうと、急いで車を出し、帰宅した。
案じたとおりひじは痛みをまし、湯飲みも持てなくなった。頭のこぶは押すと痛いが、こちらは大丈夫そうだ。ひじにシップをして床についたもののどうやっても痛い。夜中に指がはれぼったくなり、慌てて指輪をはずした。
翌日、整形外科に行った。車のハンドルも握れず、傘をさして出かけた。ゆっくり歩いても三十分はかからない道のりだ。「昼から大雨」との予報のせいか、医院はすいていた。手指の結節やふくらはぎの肉離れ、ひざやら腰やら、何かとお世話になる先生である。
X線の結果、骨は異常ないが、組織が切れて水がたまっているとのことで、石膏でひじを固定し、内服薬を貰って診療は終わった。「ひじの関節が欠けるケースだけれど、骨は丈夫そうだね」と言われ、胸をなでおろした。
私が滑って転んだのは三回めである。それまで怪我はなかったけれど、思い出してみたら三回とも同じ状況だったことに気付いた。雨の日、プラタイルの床、同じ靴である。うっかりしていた。
転んだときは誰もいなくて良かったと思ったが、打ち所が悪くて意識不明にでもなっていたらどうしただろう。階段から落ちて亡くなった知人もいる。それを考えたら恐くなった。 人の命と日常の元気さとは必ずしも比例するわけではないと、改めて感じたことだった。
梅雨時になると思い出す出来事である。