07’9’11
この夏、久しぶりに来た息子が、庭を眺めて「ジャングルになったなぁ。 更地にしちゃえば・・・」と独り言のように言う。
敷地の六分の一に所有権を持つ息子だが、固定資産税を払うわけでもなく、木の枝一本剪定するわけでもなく、生える草一本抜いたこともない。 それでいて、将来「土地をもらう」ことだけはしっかり考えている我が家の末っ子である。 まったく勝手な男である。
何年か前、庭の大きな松の木を切ったことがある。 「切ろうと思う」と私が言った時、この息子は、「我が家の象徴的な木なのに・・・・」と言ったものだ。 「じゃあ、松の木は年に二回の手入れが必要だから、その費用を出してよ」と私は答えたが、一向に音沙汰なしなので、切ってしまった。 今は周囲の木が伸びて、どこに松があったのかさえ分からないほどである。
その男が、こともあろうに「更地にすれば・・・」と、ノタモウタのである。
確かに、近所にできた千坪の更地を目にしたときは、何もないのもすっきりしていいかもしれない、と私も考えたのだった。 さりとて、我が庭を更地にしてしまうほどの気にはなれず、とりあえず、木を減らすことにしようというところでとどまっている。
我が家では一年中出ている堀炬燵が、夏はテーブルになる。 寒くなればヒーターを入れ布団をかけて、炬燵である。
出先から昼前に帰宅したら、この炬燵の上にメモが載っていた。 紙くずかごから拾い出したらしい紙に、出が悪くてかすれたサインペンで、「留守中にあがらせてもらいました。 パソコンも使わせてもらいました」とある。 件の末っ子である。 今日は休みだったらしい。 何か用事だったのかと思い、電話をしてみた。
彼のパソコンがウイルスに感染して、駆除したが、ダウンロードなどが思うようにできないので、もう一度ソフトをダウンロードさせてもらいたいと言うのが主たる目的で来たらしい。 ついでに「瀬古さんの本」も持って行ったとのことだった。 高校時代マラソンをやっていた彼には「神様の本」である。
小さい頃から、隣のおばぁちゃんが、「この子の守は“こと”だなぁ」とあきれるほどのいたずら坊主で、片付けが大の苦手だった息子だが、使ったというパソコンはきちんと所定の位置に納まっていた。
お世辞にも達筆とはいえないメモを眺めていたら、なんだかホンワカした気分になった。 昔、上の息子が、「同じことをしても、俺は叱られたけれど、あいつは叱られなかった」と言ったことがある。 「だから、あなたはいい子に育ったのよ」と答えたけれど、納得するはずもない。 要するに人様同様、末っ子には甘い母親だったのだろう。
せっかく来たのだから顔くらい見たかったが仕方がない。 「近いうちにまた行きます」と言ってはいたが。
今度来るまでには、庭のジャングルにも少しは手を入れておくとしよう。
ところで、彼はどうやって家に入れたのだろうか。 電話であらかじめ留守を承知した上で、実家の鍵を持ってきたものか、あるいはピッキングの手口で侵入したものか、それを聞き洩らした。