車 検 前 後 

09’2’13
 今年は車検の年だと、年明けから気になっていた。 あっという間に車検の年はやってきて、その出費も馬鹿にならない。 そんなに車検をする必要があるのかなとも思うが、業者には“おいしい”制度なのだろう。

 最寄のメーカーの営業所からも、車検を知らせる電話があった。 車検前に無料見積もりもできるというので、動かなくなってしまったカーナビの具合を先に見てもらうことにした。 ひところは営業所に自分で車を持ち込まなくてはならないようなことを言っていたが、引取りと納車のサービスは復活したらしい。

 約束の時間よりも早く車の引き取りに来てくれたのは若いSさんだった。 すらりとした長身のSさんは、いまどきの若者らしく、スマートな青年だ。 「そろそろ新しい車に買い換えることもご検討ください」と言うところを見ると、営業も担当しているらしい。
 夕方、「カーナビはヒューズが切れていました」と言いながら、車検費用の見積書を持ってきてくれた。 見積書には部品等の価格と技術料とが並んで載せてある。 ワイパーのラバー取替えの技術料が前後それぞれ¥840! 何度か、ホームセンターから買ってきて自分で付け替えたけれど、プロはしっかり取るんだなぁと感心する。 
丹波渓谷でのマイカー

 戻ってきた車のカーナビを試してみようと乗り込んだ。 足元にはしわくちゃの紙が敷きっ放し。 車を汚さないようにとの配慮なのだろうが、これは当然片付けてもっていくべきものだろうに、若いヤツはしょうがないなと思う。
 カーナビは気のせいか画面がきれいになったような気がした。 ひょいと横を見ると、助手席との間のボックスになにやら入っている。 大昔のラジオの真空管をミニサイズにしたようなものだ。 これがカーナビのヒューズなのかなと思って見たが分からない。 要するにごみである。
 最近はどんな仕事で来る人も、ごみひとつ残さず帰るのが当たり前のようになっているから、「なんだかいい加減」との印象は否めない。

 車検当日もまたSさんが来てくれた。 また車の買い替えを薦める。 そろそろ免許返上の年齢だから、買う気はまったくないと、返事は前回と同じである。
 翌日、車検を終えた車は思ったより早い時間に戻ってきた。 事務的な話を聞き、料金を支払い、また車買い替えの話を聞かされ、同じ返事をして、用は済んだはずだった。 ところが、門の前でSさんたちの車を見送り、振り返って眺めた我車には、なんと前バンバー角にこすった痕と黄色い塗料が派手に付着しているではないか。 目を疑った。 Sさんはこれに全然気がつかなかったのかと不思議な気がした。

 すぐ電話をかけた。 彼はまだ営業所に戻っていなかった。 夕方、私の車担当のMさんとSさんがやってきた。 Mさんは車の傷を目だたなくさせる名人でもあり、前にも世話になっている。
 車検前に営業所で撮った写真に既に傷は写っていると言うが、私も傷になるほどこすって気づかないほどボケてはいないつもりである。 結局どこでついた傷かはっきりしないが、ウレタンの部分だからさびることはないし、とりあえず、塗料だけ取ってもらえれば良いということにした。

 バンバーの右角に傷がつくような接触では、運転席から見ればほとんど衝突した感じだろうと思うから、営業所内でついた傷に違いはあるまいとは思っている。 写真に写っていると言うのは多分「?」だろう。 Sさんの顔にそう書いてあるように感じた。 「お預かりしている間のことだから、上に報告しておきます」とMさんは言ったが、謝罪の言葉はなかった。 交通事故の場合、謝罪は自分の非を認めることになるから・・・と、聞いたことを思い出していた。 Sさんは最敬礼をして帰って行った。

定位置 (08'2・雪の日に)

 新聞屋さんが入って来にくい場所に停めてくれたので、定位置に停めなおそうと、車に乗ってエンジンをかけたら、なんとラジオがついた。 ヤッコさん、ラジオを聴きながら納車に来てくれたらしい。 そして、書類一式は助手席に無造作においてあった。 もちろん座席は長身の人に合わせたままである。 やれやれだ。
 今まで何度も車検は受けているが、書類は元通りの場所にしまわれていたし、座席も「私の位置」に直してくれてあることが多かった。 ラジオがついていたなんて、もちろんはじめてである。 彼の責任ではないのかもしれないが、バンバーの傷とあいまって、私の中で、Sさんの株は大暴落した。

 彼も、いつかはひとかどの営業マンらしい気配りができるようになるのだろうか。 近年、新人教育と言う言葉をよく聞くが、現代の新人教育は、仕事を教える以前の教育が必要そうである。 さぞ大変なことだろうと、私はMさんに同情した。
 納得はできないが、おおごとにする気もないので、傷の件はうやむやに終わることになるだろう。 だが、私の頭の中には「車検に出したら傷がついた」という事実だけは、しっかりインプットされたのだった。 私にとって、「車検」は、ますますうっとうしいものになりそうである。   

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