主 治 医 I 先 生

07’9’25
 私に足りないものは、「脳みそと財布の中身」だと思っていた。 ところが血液中の白血球も少ないことが分かったのは、二十年近くも前のことだ。

 市の成人病検診で分かったものの、先生が「大丈夫でしょう」と言われるので、気にも留めずにいたが、年々数値が下がってくると、ちょっと気になった。
 検診を受ける医院を替えて二回目の検診を受けたときに、病院の血液内科を受診するようにと、紹介状を書いてくださった。 そのときまで、「血液内科」なる診療科目があることさえ私は知らなかった。

 病院の「新患」担当の先生も、「大丈夫じゃないの」と言われたが、私は、血液内科の患者になった。 血液内科の I 先生は、さすがに「大丈夫」とはおっしゃらず、三週間ごとに検査をすることになった。
 白血球の数は、6000くらいの人が一番多く、3000あれば心配はないのだそうだ。 私は2200から2300。 確かに少ないけれど、自覚症状はまったくないし、元気に山にも登っていた。 この数値で、貧血を伴えば「再生不良性貧血」と言う病名がつくらしいが、幸いなことに貧血はなかった。

 しかし、「何か原因がなければこんなに少ないわけがない」とのことで、検査もいろいろ受けたけれど、多少、造血機能が弱いと言う以外に異常は見つからない。
 血液検査の間隔も一月毎、三月毎、と間隔も開き、ここしばらくは四か月おきになっていた。 先生も、「この状態でもう長いから、そう深刻に考えなくてもいいのだろうけれど」、と言われ、結果的には、何人かの先生が言われたように「大丈夫」なのである。 白血球の数も、まれには2800くらいまで増えることもあるが、大体2400前後で低いながら一応安定している。

 「何か変わりはないですか」「はい、変わりありません」と言う会話を交わすために、年に二〜三回通院する。
 今年になって、娘の通院の“アッシ−役”で病院に行ったとき、主治医に行き会った。 とっさに「似ているけれど I 先生ではない」と思ってしまったほど、ほっそりとやせていらした。 大柄ではないが、小太りで若々しい先生だったのに・・・。
 健康を考えてダイエットされたのかな、とも思ったが、二か月や三か月でそれほどやせられるものではないだろうから、ちょっと心配だった。
 家が近所で、会えば言葉を交わすこの病院の看護師、Oさんに行き会ったときに、「何だかやせられたみたい・・・」と話すと、「糖尿があるからって聞いている」との話だった。

 今年の三月の通院のときに、「先生、ほっそりされましたね」と口元まで出かかったけれど、なぜか飲み込んでしまって言わなかった。 ただ、いつもは「じゃ、次は○月○日ね」と予約票を渡してくださるのに、「次はいつ来る?」と言われるのに驚いた。 とっさに返事ができずにいると「幾月後にする?」と重ねて言われる。 「半年後では開きすぎますか?」と言うと、「何かあっても分からないかもしれないけれど・・・」とおっしゃりながら九月の予約票を下さったのが、何か奇妙に思えた。

 九月になって半年振りに通院したら、先生は休診だった。 七月の通院のときにも病気でお休みだったと言う人がいた。 私がいつものとおりに四か月後に通院していたとしても、先生はお休みだったことになる。
 あの「やせ方」と「前回の会話」が、今、私を不安に陥れている。 「医者の不養生」と言うこともある。 代診の先生が出してくださった、半年後の予約票の「医師名」は、休診の I 先生になっている。 半年後にお元気で出てこられるかどうか、非常に気になっている。
 Oさんに会ったら様子を聞いてみようと思っているのだが、こういうときに限ってなかなか出会わないものである。  

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