老後の楽しみ

05’2’17
 一年前、私のホームページの掲示板に頂戴した書き込みから、奥秩父、大滝村の三十槌地区に「氷柱」のできる場所のあることを知った。写真も添えていただいたので、「来年は必ず見に行こう」と決めていた。 
 この冬は、大滝村観光協会のホームページを早くからチェックしていた。定期的に氷柱情報が更新されて、「氷柱祭り」の行われる日時や、その時々の氷柱の「成長」を知ることができるのはありがたかった。

 私は写真を撮りたいので、できれば車で行きたいと思った。三脚やカメラや飲み物を積んで行ければ何かと好都合である。分かりにくい場所でもなし、距離的にもそんなに遠いわけではなく、二時間少々で行けるだろうと考えていた。 
 心配だったのは、道路の凍結だ。秩父には今までにも何度も出かけていたが、一山越えると雪の量も多くなり、寒いから道も凍る。私は、原則として雪道では運転をしないことにしているので、普通タイヤの車である。 
 凍結した道路は怖い。降り出した雪でシャーベット状になった山中の道を走っていて、まったくハンドルの利かなくなる経験をしてからなおさら怖くなっていた。 
 最近のカメラブームを考えると、休日の混雑は容易に想像できる。しかし、「時期のもの」だから、ある程度はやむをえないだろう。最低「氷柱祭り」の二日間は避けることにした。「甘酒の接待」も魅力はあったのだけれど、とにかく写真を、である。 

 二月に入り、「見ごろ」との情報に、できれば十一日の二度目の「氷柱祭り」前の九日か十日に行きたいと思ったものの、道路の状態が気がかりだった。 
 直前の天気予報で、十日は時ならぬ暖かさが予想されると言うので、「その日に」と決めた。氷柱も緩むかもしれないけれど、道路の安全性を優先した。日の当たらない場所らしいから、暖かいとはいえ、氷柱がそう簡単に解けてしまうこともあるまいと考えた。 

 朝、サンドイッチを作り、ポットにお湯をつめ、カメラや三脚、それにブーツも積んで八時四十分ころ家を出た。確かに暖かかったけれど、「氷の世界」に行くのだからと、キルティングのコートも持った。 

 平日の駐車場に指定されている福祉センターの位置がよく分からないので、大滝村役場をカーナビにセットして出かけた。ナビの案内では、青梅から山伏峠を越えるようになっていたが、山伏峠には雪があるかも知れないと心配になり、途中から飯能回りにコースを変えた。最近は新しい道路ができたり、細かった道が拡幅されていたりするので、一人のときはナビの存在が心強い。 

 案の定、正丸トンネルを抜けると雪の量が多くなった。大滝村役場に寄って福祉センターの位置を尋ねると、外まで出てきて丁寧に教えてくれた。ところが当日の福祉センターは何か催し物があって、「氷柱見物車」は締め出されている。 
 居合わせた人が、「氷柱近くに駐車場があるはずで、平日だから停められるだろう」と教えてくれた。言われたとおりに行くと確かに駐車場があり、まだ何台分かの駐車スペースが空いていた。靴を履き替え、カメラを持って数分で「現場」に着いた。福祉センターからでは、かなり歩くことになっただろう。何が幸いするか分からないものである。 

「氷柱下り口」の看板から、川幅の狭い、荒川の河川敷に下りる。踏み固められた雪の向こうに細い流れを隔て「巨大なツララ」が連なっている様は壮観だった。下まで届いて氷柱になっているものもある。墨絵の世界に、木の枝の色がわずかな彩を添えている。自然の営みは感動的だ。 
 上から眺めて見当をつけていた場所に三脚を構える。なぜか真正面から写す人が多く、私の周囲には誰もいなかったけれど、ファインダーを覗いてみるとほぼ予想通りの構図になった。移動しながら、撮り続けた。幸いなことに人も少なく、気兼ねなく撮れた。 
 もういいかな、と思ったころには、一時間が過ぎていた。五十枚ほど撮れた。手もあまり冷たく感じなかった。 
 十二時ころ車に戻り、後部座席で、コーヒーを入れ、サンドイッチを食べ、デザートのみかんの皮を剥きながら、満ち足りた気分に浸っていた。  

 少し休んで帰路に着く。道の脇に積まれた雪が解けて流れ出している。これが凍ったら怖かったなと思いながら走った。武甲山もこちら側から見ると形がいい。行きにはコースを変えた分、少し無駄な走りをしたが、帰りは早かった。 
 家に帰ってすぐパソコンに取り込む。ウィンドゥいっぱいにして見るとなかなかの迫力だ。同じような写真ばかりだけれど、自分としてはまぁまぁ満足と言うところだ。水に映るところを撮って来なかったのだけがちょっと失敗だった。 
 写真を撮るには一人の方が気楽なので出かけてしまったが、山仲間も行きたいと言っていたから、もう一度行くことになるかもしれない。そのときは電車で行き、できれば三峰にでも登って来たいものである。

 考えてみると、このところ「撮影目的」で、あちらこちらにかなり行くようになった。昨年の明野村のひまわり公園や、正月に行った荒川の白鳥、そして今度の氷柱などは、私としてはやや遠出。これは多分カーナビのおかげである。「案内付」で出かけ、「どこからでも心配なく帰れる」ことが、億劫になりかけていた「お出かけ」を、少し積極的にさせてくれているようである。 

 私の老後の楽しみは、カメラ、パソコン、カーナビによって生み出されているとも言えそうである。ただ、高速道路を逆走したりする人も私の年代である。十分気をつけなくてはと、自戒するところである。


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