古いことで、どこの山だったかは忘れてしまったのだが、木の下のほうに絡み付いている2センチ足らずの「つる性の木の葉」が綺麗だったので貰ってきた。
特に珍しいものではないが、濃い緑に白い葉脈、つやつやした葉が美しいと思った。
家の裏手に植えた。地を這って伸び、何年かするうちに家の外壁を登り始めた。ムカデか、ヤスデの足みたいなもので張り付いている。可愛い葉っぱなのでそのまま伸びるに任せていた。数枚の葉が真っ赤に紅葉する事はあっても、冬もそのままの緑を保っていた。
そして今年、花が咲いたのだ。窓を開けて気付き、「へぇ、花が咲くんだ」と驚いた。サンダルを突っかけて見に行った。
花の咲いている周りの葉は、大きい緑の葉で、白い葉脈の、あの葉ではない。訝りながら枝をたどっていくとやはり同じ木である。
花は、直径2センチくらい、薄いクリーム色で花びらは5枚、見た感じは「風車」である。芳香がある。
今まで名前も知らず、調べようとも思わなかったのに、花が咲いたことで俄然興味が増した。さて、どうすれば図鑑でこの木にたどり着けるのか、と思いながら図鑑をめくっているうちに、「つる性植物」という言葉を見つけた。
次はネットでの検索だ。「つる性木本」で検索する。開いてみると「落葉」と「常緑」があり、常緑は数としては少ない。「落葉つる性木本」には「つる梅もどき」や「つた」など、おなじみの名前が並んでいる。「常緑」は「かずら」類。「名前は聞いた事があるけれど実物を知らない」のが「定家かずら」だった。「そんな立派なものかな」と思いながら開くと、まさにぴったり、同じ花が出ている。「定家かずら」ってこれなのか、と今更ながら知ったのである。若齢樹は白い葉脈のある小さな葉であることも分かった。

山ではこんな感じ 大高山にて
花は下から2メートルくらいの範囲に咲いているけれど、つるは倍以上先まで伸びている。このまま伸ばしては困るかもしれないと、新たな心配が出てきた。「うっそうと茂る」と図鑑にある。ここでうっそうと茂られては問題だ。
花の後は長い豆のような実ができて、綿毛の種が飛ぶということなので、そこまで見たら上のほうは切って、横に伸ばそうかと考えた。
定家と深い契りを結んだ式子内親王が亡くなり、定家の執心がかずらとなってその墓を覆ったという謡曲に由来する名前、ということである。「新古今集」の撰者でもあり、「明月記」などでも知られる藤原定家が、真偽のほどはともかく、そういうエピソードを残しているのも面白い。
「定家かずら」。花が咲き、名前を知ったことで、妙に親しみがわいて、「大事な木」になってしまった。