10’7’11
私のサイトに時々来てくださる方が、「棚田狂いをしております」と言われて、貼り付けてくださる写真が、とにかく素敵なのである。 もちろん、写し手の腕によるところが大きいのは言うまでもないが、うっすらと靄のかかる夜明けの棚田に朝日が射し始める、なんとも幻想的な風景を見れば、誰でも「棚田狂い」をしそうに思えてくるのである。 この方のサイトの四季折々の棚田の風景を、ため息をつきながら私は見ている。
「棚田百選」に選ばれるような見事な棚田を残念ながら見たことがないのだが、「幻想的な、絵になる棚田」には、どうやら、カメラマンが殺到しているらしい。
東京に棚田はないとされていたが、早稲田の教授が見つけられたのだそうだ。 「弁天山棚田」と名づけられている。 「あの弁天山なら近いが・・・」と調べていくと、その弁天山だった。
地図を調べ、翌日、早速出かけた。 ある程度の見当はつく場所だったので、30分もかからずに、行き着くことができた。
弁天山登り口への案内板のあるところを曲がり、山道になる手前で車を止めて下りてみると、目の前にネットで見た風景が広がっていた。 8枚の田んぼが緩やかなカーブを描きながら階段状に続いている。 山間の土地をうまく利用しているものだ。 下の方の田んぼ脇にある平地にはベンチがいくつかあり、海水浴場で見かけるような大きなビーチパラソルがたたんで置いてあった。 田植えが終わったばかりのように見えた。
あいにくの曇り空で、田んぼに張られた水が、私の望むほどの輝きを見せないのは残念だったが、一番上から見下ろすと、そこにはしっかりと「棚田の風景」があった。 すぐ下に新しい今風のお宅のあるのが東京らしいと言えば言えそうだったが、雰囲気を壊すものではなかった。 高みにはヤブカンゾウが咲き、畦にはアゼムシロが花をつけていた。 きれいな色のシオカラトンボも飛び交っている。 すぐ近くで、ホトトギスが盛んに啼く。 山道へ入るところには、赤い鳥居がたち、その横には刈り取った稲をかけるハサギに使うらしい丸太もあり、いかにも里山と言う雰囲気だった。
一番上の深い草の中に入ればもう少し思うような写真が撮れそうだったが、長靴を持たずに行ったので、蛇でもいたらと、ちょっと躊躇してしまった。 おまけに、望遠レンズよりは広角レンズの方が必要なのに、その広角レンズを忘れている。 近いから、また行けばいいのだが、貧乏暇なし、次回は稲が育つころになりそうだ。 しかし、小さいながら「棚田」を見ることができ、満足した。 満足させてくれるだけの魅力のある棚田だった。
弁天山は標高が300メートルに満たない低山だが、春には三つ葉ツツジの咲くことで知られている。 その頃、棚田を見ながら、ハイキングコースを行くのもいいかもしれない。
遠くには行けないが、ここならば時々来られると、細い畦をそうっと行き来しながらうれしさを噛み締めていた。 棚田は町田市にもあると知ったが、私はこのひっそりと静まりかえった、「弁天山棚田」のたたたずまいがすっかり気に入ってしまった。
何よりも近いのがうれしい。 ここにカメラマンが集まるとも思えないから、さしずめ「マイ棚田」である。 おそらく、大きな棚田にはない良さがあるに違いないと感じていた。 この棚田で、ここなりの良さを、十分に味わい、少しでも写し取れればと思ったのだった。