東大農場

05’4’10
 さほど遠くないところに、東大の農場があることを知ったのは昨年のことだった。 その農場が閉鎖されるのに反対して、地元で存続を求める運動が起きているという記事で知ったのだから、なんとも皮肉なことである。

正門

早速ネットで検索してみると、閉鎖云々は分からないものの、西東京市にあって、平日は一般公開されていること、桜並木があり、桜の時期には休日にも公開されること、ポプラ並木のあること、演習林が四季それぞれに美しいこと、などの知識を得た。 一度行って見なくては話にならないと思ったが、どうせなら、桜の時季に行こうと考えた。 普段は車で中まで入れるらしいが、桜の時季には車での来場はご遠慮ください、とのことなので、西武線の田無から歩くことになる。
  今年の桜は遅かったので、休日公開日の四月二日、三日にはまだ咲いていないと思われた。 カメラだけ持って様子を見に行き、また改めて出かけてもいいと思った。

そうこうしている時に、山仲間から、青梅のカタクリか、あるいは都立小金井公園のお花見に行くかしないか、との誘いがあった。 そこで、私は東大農場の話を持ち出し、そこを見学してから小金井公園に行くことを提案してみた。 ぜひそうしようと、話に乗ってくれたので、いつもの三人で出かけることになった。  

桜並木
 桜も見ごろのことゆえ、人の少ない開門早々に行くことにした。  思ったよりも駅から近く、九時過ぎに到着。

 正門を入ると左手が桜並木で、青空に満開の桜が枝を伸ばしている。 カメラを向けている人が一人いるだけの静けさだった。 「見事ねぇ」と声が上がる。 はらはらと散り始めている木もある。 ちょうどいいタイミングだ。
  桜並木がちょっと途絶えると「楓の見本林」。 芽吹きの赤みを帯びた黄緑色がみずみずしい。 その下には椿が並んでいる。 珍しい種類ねぇと、眺める。 右手には、麦畑と菜の花畑が広がる。 穂の出揃った麦畑を見たのは、久しぶりだった。

菜の花畑

 備え付けのノートに記帳して、樹木園に入る。 強烈な桃のピンク色にまず目をうばわれる。 桜、枝垂桜、ハクモクレン、コブシなどの花が咲いている。 まだ花を見たことのない「ヒトツバタゴ」もあった。 花期には来てみようと思う。 
 クローン栽培中の杉には、花がまったくついていない。 花粉がないから、これからの杉はこれになるのかと思われるが、花粉ができなければ、クローン技術で増やす以外にはないのだろう。
 「クローン人間じゃないから、まぁいいけれど」と話しながら見上げる。 
 樹木園の一番奥はメタセコイアの林だ。 気持ちよく天に向かって伸びている。 
 お目当てのポプラ並木が見えてきたけれど、いったん樹木園の入り口に戻らなくては行けないようだ。 ポプラ並木に向かう途中には牛の放牧場があり、保育園の子供たちが、にぎやかに集まっていた。
 子供を遊ばせるには自然の原っぱもあり、いいところだ。 「遊ぶ」ではなくて、「自然観察」というべきなのだろうか。 

メタセコイア林
 ポプラ並木は道の両側にあり、葉を落としている今は、裸木ならではの美しさで並んでいるのだけれど、道の真ん中に立つと、正面にマンション風の建物が、でんと控えているのにはいささか興ざめした。 周囲がこんな環境になって「閉鎖話」が持ち上がったのだろうか。 

散歩を楽しむ人、カメラを手にしている人、画架を立てて写生をするグループと、次第に人が増えてきた。 膨らんだハナミズキのつぼみを見ながら、開花のころのハナミズキ並木を想像していた。 

 帰りには桜並木の下の芝生は、「桜を楽しむ人」でいっぱいになっていた。 場所柄、飲んで騒ぐお花見はできないが、そこがまたいいと思う人たちなのだろう。 小さな子供連れが多いようだ。

 一周して、「無くすのは惜しい。 自然公園としてでも残せないものか」というのが、私たちの感想だった。
 そうなれば無料とは行かないだろうけれど、きれいに整備などせず、あまり手を加えない形で存続できればうれしいことである。
 「研究機関」なのだろうが、ここには昔ながらの「自然との一体感」があると思った。 田畑の間の草の生えた道、伸び伸びと枝を伸ばす木々、のんびりと寝そべる牛・・・。

 その後、私たちは、桜も満開、人も満開の都立小金井公園までの道を、お互いに「丈夫な足だ」とあきれながら、一時間あまりかけて歩き通してしまった。
 小金井公園もきれいだったが、東大農場には、折を見てまた出かけたいと思う。 この農場を人々の「オアシス」として、何とか残してほしいと切に思ったことだった。


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