05’11’4思い立って、飛騨高山から白川郷をバスで巡る一泊のツアー旅行に参加した。 私のお目当ては、「白川郷」と「お箸で食べるフランス料理」。ツアー初日の夕食、「お箸で食べるフランス料理」がなかなか好評だと言う。
三〜四十年前には、ホテルでの結婚式に招待されても、洋食のフルコースでは、ナイフもフォークも使えないし、マナーも分からないから招待を断った、と言うような話を結構聞いたものだ。
当時、我が家では、子供たちがそれでは将来困るだろうからと、洋食セットを購入し、家で作るポークソテーやハンバーグを食べるときに、使わせていた。 ナイフやフォークに対する抵抗感だけでもなくしておいてやりたいと、ささやかな親心のつもりだったが、成人した子供たちがそれをどう思っているかは定かではない。
外食産業も栄えている今日では、そんなこともあるまいと思ったけれど、やはりナイフとフォークよりはお箸でという人が多いと見える。
このツアーへの一人参加は私だけだったらしく、部屋もホテルの七階の一室を一人で使え、どちらのベットに寝ようかなと考える贅沢さだった。
お風呂は下の温泉に入りたいと思うものの、ホテルの食事では、浴衣に半天でスリッパ履きとも行くまいから、温泉は寝る前に入ることにしてと、ブラウスだけを着替え、小さなイヤリングをつけてレストランに降りていった。 旅にも楽な、いつもの山行スタイルでは「浮いてしまうだろう」と思ったのである。
部屋割りもグループごと、食事もグループごとで、最近のツアーは気楽で楽しい。 「一人」が、少なくとも嫌いではない私としては、知らない人の間に挟まれるよりもはるかに有難い。
山小屋では、共通の話題があるから、知らない同士でも話は弾むのだが、普通の旅では、そのあたりの雰囲気が大違いである。私にも一人分の、やや小さめのテーブルが用意されていた。 横にはしゃれたスタンドがあり、スタンドの向こうは添乗員のお嬢さんの席で、全体も見通せるよい場所だった。
驚いたのは半数近いと思われる人が、浴衣に半天姿だったことだ。 特に何も話はなかったのだけれど、ツアー客を引き受けるようなホテルでは、やかましいことは言わないらしい。 男女とも、接客係は黒い制服を着ていた。
飲み物の注文を取りに来たので、ロゼのグラスワインを注文した。 テーブルのセッティングは、ナイフ、フォーク、スープ用のスプーンが右側にまとめて置かれ、上に、ティースプーンと可愛いナイフ、フォーク、手前に「お箸」である。
フルコースの料理とは言っても、そこはそれなりで、気楽なものだった。 「牛フィレ肉のソテー」も食べやすく切ってあるところは、さすが「お箸で食べる・・・」だ。
お箸と、ナイフやフォークも使い、まことに食べやすかった。 それにしても「お箸」とは、なんと便利で使いやすいものかと、改めて感心させられた。グラスを傾けながら、料理が運ばれてくるたびに、カメラで撮影しているおかしな客と思われたかもしれないが、添乗員や、隣のテーブルの女性お二人さんとも二言三言言葉を交わしながら、大満足の私だった。
部屋に戻り、アルコール分の抜けた頃、浴衣と半天に着替え、スリッパのまま温泉に行った。 時間的に遅めだったことが幸いして、すいていた。 手足を伸ばし「極楽、極楽」である。
お目当てだった白川郷でも思ったとおりの雰囲気を味わえたし、食事も十分楽しんだし、うれしくて今夜は寝られないかもしれない、と思いながら、あっさり寝ついた私だった。