08’10’10
以前、一度ムクドリの渡りと思われる光景を偶然見たことがあった。 新宿から拝島に向かう西武線で、田無を過ぎてからだっただろうか、なんとなく外を見ていた私の目に、鳥の大群が映った。 その大群が森の上に差し掛かったとき、同じくらいの群れが一斉に飛び立って合流したのである。 鳥の大きさから椋鳥だろうと想像したのだが、残念ながらこちらは電車の中だ。 そこでドラマは終わってしまった。
9月末のことだったから、多分あれはどこかへ渡って行く鳥たちだったのだろう。 それにしても、「その森を通る日時」、「それに合わせて終結して待つ鳥たち」。 どういう能力を持ち合わせているのか、不思議で仕方が無い。
弱いもの同士、群れを作って敵の襲撃に備え、海面すれすれに飛んだり、上昇気流を利用したりしながら、本能の赴くままなのだろうが、命がけで渡っていく。
猛禽類の渡りの話をしてくれた友達とは、その後会う機会がなくなり、詳しい話は聞けなくなってしまったが、その話を忘れることはなかった。 その渡りがムクドリほどの大群になるとは到底思えなかったものの、ある程度の群れで飛ぶ様子を見たいと思い続けていた。
多摩川対岸の堤防の外れに、人が集まっていることがあった。 何をしているのかよく分からなかったのだが、対岸の草花丘陵へ行くのにそこを通ってみて、鳥を観察する人たちらしいと知った。 なんとかスコープという観察用の望遠鏡を三脚につけて川を見ている人がいた。 何か変わった鳥でもいるのかなと思いながら通り過ぎた。
この秋、堤防の外れに人が集まるのを目にすることが増えた。 大体朝のうちのことだ。
先日、しばらく山道を歩いていなかったので、少し足慣らしをしようと、山仲間の友達と待ち合わせて、草花丘陵へ出かけた。 この日は昼までに3時間程度歩こうと、9時に待ち合わせていた。
対岸へ渡ると、堤防の外れはにぎやかだった。 女の人も何人かいたので、「どんな鳥が見られるのですか」と尋ねてみた。 「猛禽類のサシバです」という答えが返ってきた。 そうか、サシバというのもいたなと思い当たった。 渡りが見られるのはここだったのだ。 「どのくらいの群れで渡るのですか」と聞くと、「5〜6羽のこともあれば、12〜3羽のこともあります」と言う。
そんな話をしているときに、一人の男性が、「見えるよ」と言ったので思わず空を見上げたが何も見えない。 「ほら、太陽に近いところ」と言う。 言われて目を凝らすと、確かに鳥らしきものがはるか上空で円を描くように飛んでいる。 双眼鏡で見ながら「サシバだ」と言っている。 「肉眼でも見えるよ」と。 私たちと話をしていた人も荷物に駆け寄り、双眼鏡を取り出していた。 目がおかしくなるほど見て何羽かいることは分かった。 「何羽もいる」とみんな騒いでいる。 正直なところ、私は「気が抜けた」。
お礼を言って、私たちは山道に入った。 「猛禽類の渡りってこれだったのね。 もう少し大きく見えるのかと思った」と思わず笑っていた。 確かに渡りには違いないのだろうが、私が思い描いていたものとは似ても似つかぬものだった。 どうやら羽村の山で休むと言うことではないらしい。 「あれじゃ、言われなくちゃ分からないね」と話しながら、気持ちはもう、足元の可愛い「みぞそば」の花に向いてしまっている私たちだった。
「あれを見るためにわざわざ・・・」と思うとおかしいが、「何で大変な思いをして山に登るのか」との質問に悩まされる我々も同じことかなと思ったりもした。 何はともあれ、何年も見たいと思い続けていた「猛禽類の渡り」も、これで、私の中では、無事に終わりを迎えたのであった。