私の山中毒

04’6’23
 「大荷物を背負って、何が良くて山に行くのかわからない」と言う人がある。私自身、なんでこんな大変な思いをしに来るのかなと思うこともあるが、「どうしようもない山中毒なのよ」と答えることにしている。
 若いころ、何となく浮かぬ気分でいると、亡夫はよく言ったものだ。「そろそろ山へ行って来いよ」と。私の不調は、山という麻薬の禁断症状と思っていたのだろう。事実、奥多摩の山を一日歩いてくると、私の気持はすっかり落ち着き、元気になるのだった。

主峰・赤岳
 何年前になるだろう。夏、八ヶ岳縦走の計画を立てたものの、今ひとつすっきりしない腰の具合にいささかの不安を抱いていたことがあった。途中で動けなくなってしまっては長年の相棒にも迷惑をかけることになるし、というわけで、少々の暑さは我慢することにして、コルセットでしっかり固定して出かけた。
 コルセットの効用は大きく、ほとんど腰の具合を意識することなく、連続する鎖場も無事に通過して二泊三日の山行は終わった。
 同行できなかった仲間に、コマクサや千島ギキョウの綺麗だった話と一緒に、「コルセットをして行った」話もしたところ、「人が聞いたら、そうまでして行きたいものかとあきれる事は確かね」と笑っていた。私もそう思うから、「そうまでしても行きたい気持」を分かってくれる仲間にしかこの話はしなかった。
 コルセットをすればまだしばらく歩けそうだし、秋の穂高もいいだろうなぁ、などと思いながら帰ってきたものだ。
 このかなり重症な私の「山中毒」は、現在に至っても治る気配がないのは、何とも困ったことである。 

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