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れすとらんドボルザーク



この頃こなくなった林さんのところのシゲオさんから
メールさえ来なくて(八潟浜でいっしょに遊んだ時にも
おなじことがあったなぁ あの時は星空を見ながら モウ
しげおサン 死ンジマッタノデハナイカ?と思ったりしたが
そうでなくって こころがへたってたと 後で言われ…)
ぼくはひとりで れすとらんドボルザークに行っては
ほたるライスを食べたり初夏定食を食べたりしているんだ
  こころがへたってたってのは
  聞かれてもこまる
  汽車が来るね 汽車の音が聞こえるね そんな時に
  ああなんで夜汽車じゃないんだ 夜汽車だったら
  おれは遠いところへ それもあの遠いところへ
  いますぐ出発するのに と煮えるように思ってしまう
  へたるってのは そんなふうなことが続けざまに起こって
  もう持ちこたえていけないようになっちゃったんだね
  これは病気だろうかってだれだって思うだろうけれども
  でもおれはちがうと確信していた 雑草が妙に美しく
  そこらの水道をひねって流れる水という水がみんな
  深い山奥の神聖な泉の水のようにありありと感じられて
  これが病気だったら いままでのふつうの状態こそ
  よっぽど瀕死の病気じゃないかさ これは良い
  これはまさしく良いのだ とやっぱり確信したのだ
ほたるライスはうまいともいえるし うまくないともいえるし
雨のはげしい晩なんかに 恥ずかしいような小さな声で頼むと
なんだか藁を噛むような(そういうと馬たちに悪いようだが)
なんだかこの先もっと心細くなるような(ただでさえ心細いのに)
そんな味 というのか 食べぐあい というのか
なんだかつらい食事にすぐになってしまうところがあって
ほんとはひとりでほたるライスを食べるのは気が進まないけど
シゲオさんがひょっとして現れるんじゃないのかと
ついつい れすとらんドボルザークに向かってしまうのだった
ひとりで夕食なんかは作れるのだし なんといっても
そのほうが安上がりだというのに(いや ドボルザークの
料理がよくないなどと言いたいわけではなくって それどころか
安くっていい店だと思っている だけど 外食というのは
やっぱりいつもしていると どこか疲れるし あんまりよくない)
まるでシゲオさんを食べる のではなくって シゲオさんが
ひょいとまた現われるのを待ち望んで食べるみたいなぐあいに
れすとらんドボルザークに また今夜も あ また今夜もかぁ
そんなふうに行ってしまって そんなふうに続いていって
しまうというふうな





「ぽ」196 2007年9月

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