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ちょっとわからなくなって



すこし離れたオレンジの灯りが
ガラスの灰皿の角に
  (ひとつ
宇宙の始まりを滲ませている

冬に入ると
本当はだれもあたたかくなる
  (隠しちゃってても
  (わかる

目蓋をかるく瞑って
  (かるく
  (かるく
そうして
  (ふかく
目では なく
まなざしを閉じる

開いてみると
ここがどんな店だったのか
忘れていたりするのだ

むこうにいる若い給仕係が
歴史のような撫肩をしている

隣りのカップルは
しっとり見つめあっていて
ここにまで潤いが
渡ってくる

料理を待っていたのか
済ました後だったか
ちょっとわからなくなって
待つことと
終わった後ということの
はざまの
気分

まるで人生のように
肘をついて
顎を支え
ひかりと影と
さざめき
ぬくもり
食器の音と
笑いと
そうして
自分の
呼吸などまで
受けとめ

待つことと
終わった後ということの
はざま

料理を待っていたのか
済ました後だったか
ちょっと
わからなくなって





「ぽ」206 2007年11月

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