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こころよおまえはどこにいるの



まだ朝に遠い夜のうちのことだったと思う
夢のなかでわたしは詩を
つくる
というより
思うようにつくっていて
浮かび来る気持ちを
すらすら
心の声に出しているのだった
これを書き留めておかなければ
起きたら きっと
そんなことを思ってもいたのだから
夢を見ているのを承知で
夢中の詩づくりをしていたようでもあった

きっと書き留めておこうと思った
その詩というのが

こころよおまえははどこにいるの
たましいよおまえはどこへゆくの
わたしよおまえはことばでしかないの
……

こんな内容の短い思いで
いま此処に書き出してみても
どうにもならないような
単純素朴なことば
こんなものを詩とは
いくらなんでも呼べないけれど
夢のなかではずいぶん真剣で
こんな無駄のない
正直な思いはなかなか
おもてに出したこともないと
ひどく熱くなってもいた

こころよおまえははどこにいるの
たましいよおまえはどこへゆくの
わたしよおまえはことばでしかないの
……

夢のなかではもう少し
言いまわしもよかったようだったけれど
こんな内容のことをくりかえし
くりかえし思いながら
ああ 自分の言いたかったことは
ほんとうにこれだけだとふかく納得して
ついに正確に
表現というものにたどりついたと
しきりに感じていた

こころよおまえははどこにいるの
たましいよおまえはどこへゆくの
わたしよおまえはことばでしかないの
……

これ以上のことも
以下のことも
ことばではよう言われん
などと
知りもしない関西ことばふうしたりして
また眠ってしまったのやけど
なんやしらん
朝になって起きたら
まったく別人になってしもうとったような
すっかりなにか
変わってしもうたような

こころよおまえははどこにいるの
たましいよおまえはどこへゆくの
わたしよおまえはことばでしかないの
……

こないな感慨が
まるでわたしのからぁっぽな
中心みたいに
それでもちゃぁんと
残って





「ぽ」208 2007年12月

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