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クララ



首をかしげぎみに
いつも水のおもてを撫でていた
クララといったね、きみ
きみさえ
骨になって
もう十年

きみの死を伝えるべき人など
だれもいない世の中で、クララ
ぼくはぼくひとりに
きみの死をくりかえし続けているよ

ものの終わりというものは
どのようなものか
知るのに十年は
まだまだ短い

きみの愛したコウホネの花が咲き
水草が生き生きと輝く季節が
なんどめぐってきても
ぼくは水のおもてを撫でながら
水に文字を書いていたきみの
指のやわらかみを追っている





「ぽ」255 2008年3月

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