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私書



あらしの後
風は再びつよく
わたしはどこまでも《無く》て手を
みつめ
からだを
からだのうちから感じなおし
悲しんでいた

話をしたくても
相手は紙


またはひかり

錐のように書く夜々
寒さが
なにかを執拗に教えてきていた
目を閉じれば
他のからだ
他の
こころだったわたしに
繋がる
男であり女であり敵対する国どうしの
もっとも愚かな兵士らでもあった
わたしに繋がる

身を覆う綿や羊毛
肌触りのなかに何十も甦る
わたしたち
どのわたしも
ひとりで
荒れた地の粗末な小屋に
言葉といる

あれらの地に置いてきた
骨たちが
ひそやかに鳴っている
聞いているのは
その音
あらしの前後には
時の四方八方に
口が開く

わたしという亡霊は
だれに見えるか
聞こえるか

いま記す言葉は
いつのわたしたちに
届いていくか





「ぽ」264 2008年3月

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