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あからさまな暗号



ものを書き上げると
それは宇宙の核に刻印されるので失われることはなく、
書き上げたもの自体の浅み深みによって世界を再構成しはじめる。
したがって
本のかたちに収められようと否と
石碑や
エメラルドタブレットに刻まれようと否と
根本的な差異はなく、
むしろ写本や印刷や製本や記録の無駄を省くことこそを
書く者は心がけなければならない。
あらゆる言葉が魔法のためにのみあるのを忘れた者は
ただそれだけのために永遠の忘却の河に沈む。
魔法が復活する時に文学と芸術の名は消し去られる。
言葉と表象は魔法のためにのみあるゆえに。
書き続ける者はただ書き続けることで
力に或る日至る。
伝達の必要もなく、
自我の表出の必要もなく、
思考や外界の表現のためでもなしに、
ただ言葉の魔力を知り尽くすために書き続ける者が誠にわずかなゆえに、
彼らは宇宙の根源力に或る日達する。
その日への到達はすでに言葉によって約束されており、
したがってすでに到達はなされている。
到達していないことは、
到達しているのと同じ。
書くこと、書かないこと、
もし書くという意思のもとに書き、
書かれないのなら、
これもまた同じ。
草や紙や石や土に書かれなければならないと誰が言ったか。
伝承を忘れるな。
宙に、空に、
神々がよく文字を書いたものだったではないか。





「ぽ」281 2008年3月

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