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きょうの最初の食事


                   Mais ou sont les neiges d’antan? (Francois Villon)
             こぞの雪いまいずこ?(ヴィヨン)



遅く起きて
遅い朝食
陽は西に傾きはじめている
朝ではないから
朝食ではない
きょうの最初の食事

ことしの夏はどこへ行こう
ことしの桜は
ことしの紅葉は
ことしのクリスマスは
そんなぐあいに
死ぬ時期が近づいてきている
たぶんこの二三年ではないだろう
しかし
十年後には
親たちも
叔父叔母たちも
先生たちも
年上の知りあいたちも
大方はいなくなっているだろう
健在でも活動は鈍くなって
なにひとつ新しいこともしなくなって
意見の違いなどそのままに
反論もしなければ
激することもなくなって
むかし親しんだ
お気にいりの本の二三を開くばかり
新しいものへの興味は失せて
ぼおっとテレビを見ているだけになるだろう
引き潮のように彼らが続けざまに去ると
たぶん
ひとしきりの停滞と静寂
つぎはこちらを
引き潮が引きずっていくことだろう

ああ人生はもう過ぎ去っていく
若い頃
盛んだった頃
あんなにたくさん見た薔薇の数々
すべては消え失せて
すべては記憶の中で
こんなにも咲き誇っているのに
だれもが老いの進むなか
心の奥にさなぎを作り
そのなかに籠るようになっていく
見てもいないテレビを
つけっぱなしにしながら
生きてもいない時代を
起こるがままにしながら
もうなにを伝えようとしても詮ない
たがいになにも聞かず
なにも見ず
いっしょに動く時があるようでも
死の淵への行進を
ゆるゆるゆると続けていくばかり
会ってお茶を飲んでも
ひとりだけの茶
酒を汲みかわしても
ひとり酒

時間を
たったひとりで超えるべき時
友の手はない*



*ランボー「地獄の季節」





「ぽ」337 2009年2月

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