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定点カメラ観測



 昨年ウェブカメラを使って、2分ごとに静止画をウェブサーバに送ってみた。
 ウェブサーバはインターネットにページを公開するのが目的だから、自分がいま 見ている景色を地球の裏側の人にもそのまま公開するようなものだ。事実、アメ リカ在住の方にもURLを知らせたりした。
 テレビで放映されていた、まさに攻撃されるバグダッド市街の定点カメラは記 憶に新しいが、現在でも昭和基地の窓からの観測カメラなど興味深いインター ネットサイトがある。
 もともと技術的な興味が先だったが、意外にも変哲もない窓の景色は、驚くよ うな景観を見せることがある。
 電信柱の先端にカラスが止まり、日輪が黒く雲のなかに見える映像には驚いた。

 nichirin

 このときに思ったのは、どんなに退屈に見える景色でも、長い時間のうちに変 幻を見せるということだ。
 これは退屈と思える日常のなかでも、光と影が目まぐるしく遷移しているのに 似ている。

 「いままで、東京で見たいちばん美しい景色は?」と聞かれたら、ぼくは、 「自宅のベランダで見た朝焼け」と答える。
 明け方、まるで赤い光の水の洪水のように、あたり一面が染まっていたのだ。 まさか、あんな度ぎつい景色が東京にあるとは思わなかった。そして美しい景色が。
 たぶん俳句などでも、じっと向こうからやってくるのを待つ、という構えはあ ると思う。そうすると、定点カメラ観測も詩的な装置といえなくもない。
 ブロードバンドの普及とともにビデオチャットやテレビIP電話で、無料で地球 の裏側の方と会話するようなことがされていくだろうし、すでに会話されている 方も多いかもしれない。その場合、無線趣味のように、いきあたりばったりの知 らない方との会話かもしれないが、なにより、その人物の背景がおもしろいので はないかと思う。
 また背景をいとおしく思うのだ。あらゆる景色を時間の推移にしたがって記録 すると、退屈なものはない。
 それを実証していくのが定点カメラ観測なのだ。



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