口腔・咽頭疾患について

・上咽頭炎(鼻咽腔炎)  
 

大変多くの人がこの疾患を持っているのに治療される機会の少ない疾患です。
鼻の奥の突き当たりで、鼻と喉の境目付近が上咽頭です。
ここは常に外気にさらされているところで、慢性炎症を生じやすくなっています。
また風邪などで、ここの場所の痛みを感じることがありますが、こういった炎症が残ってしまうことによっても生じます。
また口呼吸があると、鼻呼吸による吸気の加温、加湿、浄化作用が行われないため、より炎症が起こりやすくなるとされています。
上咽頭炎が慢性化すると、後鼻漏(鼻がのどにまわる)、咽頭違和感、頭痛、肩こり、耳鳴、めまいど多彩な症状を引き起こします。
耳鼻咽喉科医でもここの部分の炎症に着目する人は少ないため、見逃されている症例が多く、言ってみれば『不幸な疾患』です。
院長は公立福生病院在籍中に上咽頭炎患者を積極的に治療し、その有効性を報告しました。
【上咽頭炎に対する局所療法の治療効果―自覚症状および硬性内視鏡による局所所見の評価―:耳鼻咽喉科展望 42巻1号:50-56:1999】
さらに大野耳鼻咽喉科開業後に追試を行い、2019年には論文が掲載されました。
【慢性上咽頭炎に対する上咽頭擦過療法の治療効果:口腔・咽頭科 32巻1号:33-39:2019】


治療前
   
 

当院では上咽頭炎の治療として、1%塩化亜鉛を鼻および口腔側から塗布する上咽頭処置を主体に行っています。
この他にも上咽頭炎の治療効果を高めると期待される方法があるので、参考にしていただければと思います。

1.塩化亜鉛による上咽頭処置:EAT(Epipharyngeal abrasive therapy、いわゆるBスポット療法)

 上咽頭に1%塩化亜鉛を、鼻綿棒にて鼻腔から咽頭巻綿子にて口腔側から擦過し、鼻ネブライザーを行います。週に2回程度の処置をお勧めしていますが、都合により週1回以下でも可能です。慢性炎症のため1.2回の処置では効果が乏しく
、10回程度の処置終了後内視鏡で治療効果を確認します。効果の見られる場合は治療を継続していきます。
 ある程度改善した場合は、通院頻度を月2.3回程度継続していくと効果の維持が期待されます。

2.鼻うがい(上咽頭洗浄)
 生理食塩液をプラスティック容器に入れ、鼻から点鼻して行います。
 容器は無料で配布しております

 生理食塩液(300ml滅菌ボトル入り)を250円で購入できます。

3.薬液による点鼻
 梅のエキスが入った、ミサトールリノローション(アダバイオ製)を点鼻し上咽頭炎の治療を行います。
 治療には1日2回、維持療法には1日1回点鼻を行います。
 薬液および専用容器は当院で購入できます(2020.5.15からリニューアルとなります)。
 価格は税込みでミサトールリノローション(洗浄器具2個、調整容器1個)が660円、 専用洗浄剤(30個)が1,980円です。

以下は上咽頭炎の原因や増悪因子となる口呼吸に対する対策です。
アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎など、鼻づまりの原因となる疾患を合併している場合は当科的に治療してまいります。

4.かっ、い〜う〜べ〜体操(あいうべ体操)
 口輪筋を柔軟にし、舌の位置を正常化させ、自然に鼻で呼吸できるようになるとされています。1日に30回程度行います。

5.口テープ
 夜間就寝時にテープを用いて口をふさぎ、鼻呼吸させます。
 テープは当院で購入できます(自費)。
 2021年4月より、従来の口テープから専用の口とじテープとして販売しています。
 1個800円(税込)で約140日分になります。


2.-5.については、当院で説明の資料を用意しております。
ご希望の方は受診の際にお申し出ください。


治療後
 
 

本疾患の治療内容に関してもう少し詳しく説明いたします。
まず上咽頭炎が疑われる患者さんには鼻咽腔ファイバースコープ検査を施行して、局所の所見を観察します。通常の観察光の他、NBI(帯域制限光)という特殊な光を用いて
炎症の程度を評価しています。
治療の適応があると判断された場合にはEATを行います。

処置の手順ですが、あとで鼻からネブライザーを施行するため、あらかじめ鼻腔に局所麻酔剤と粘膜収縮剤のスプレーを行います。続いて1%塩化亜鉛溶液に浸した鼻綿棒で鼻から、咽頭巻綿子で口から上咽頭粘膜全体を擦過します。塩化亜鉛自体が多少しみますが、炎症があると処置後の痛みがより強くなります。炎症のある例では、塗布した綿棒に血液の付着が見られます。
しばらく唾液に血の混じることがありますが心配ありません。食物はここを通らないので、食事も普通にとることができます。処置に伴う痛みは、耐えられないほどのものではないと思われますが、中には処置を受けられない方もいます。


これまでの症例の経験では、主な症状は約8割程度の方の改善が見込まれます。逆に言うと、
必ずしも全例の症状が良くなるという保証はありません。ある程度の処置を行っても症状が改善しない場合は本療法は無効と判断されますので、治療方針を変える必要があります。
EATを希望される場合は、その点を御了解の上、治療を受けられるようお願いいたします。
治療は咽頭処置とネブライザーが主体になり、保険適応で行っています。内服などの薬物療法は原則行いませんが、症例によっては消炎剤や去痰剤などを併用します。
鼻咽腔ファイバースコープ検査は保険点数が600点(6,000円)です。
初診時にファイバースコープ検査を施行した上で上咽頭処置、ネブライザーを施行すると、窓口支払は3割負担で約3,000円となります。
再診で処置、ネブライザーを施行した場合の窓口支払は、3割負担で約350円となります。
再診時に評価のためのファイバースコープ検査を行うときは、これに3割負担で1,800円が加算されます。

日本病巣疾患研究会および日本口腔・咽頭科学会での発表症例はこちらをごらんください。

 
   
・口内炎  
 

ほとんどの方が経験している疾患だと思います。小さい病変で、時間の経過とともに潰瘍面を形成して強い痛みを伴います。この痛みのために癌を心配して受診される方もいますが、むしろ癌の早期に痛みを感じることはまずありません。
しかし、1週間以上たっても改善する様子のない場合は注意が必要です。また、口内炎が繰り返し出来るような場合や、口内の広い範囲がただれるような場合はベーチェット病や水疱症といった全身疾患の一症状の可能性もあり、受診しておく必要があります。

通常の口内炎にはステロイド軟膏(ケナログ軟膏、デキサルチン軟膏など)が有効です。食事をするととれてしまいますので、食後に患部に塗布します。それと寝る前に塗布しておくのが一番有効です。口内炎が出来はじめの段階でこれらの軟膏を塗布しておくと、悪化せずに治ってしまうことが期待できるのでおすすめです。

 
     
・舌痛症  
  舌痛症は比較的高齢女性に多く、舌の先端をはじめ、舌のしつこい痛みを自覚するものです。診察してみても、異常所見の乏しい状態です。その要因として癌不安など、心理的なものが関係します。
癌は、癌細胞の固まりですので、多くは舌の側面の1か所がしこりになってきます。したがって舌全体が痛むとか、両側面が痛い場合は癌の可能性はまずありません。まず悪い病気ではないということを認識し、あまり気にしないようにすべきです。
舌のカンジダ(真菌症)や貧血から来る舌炎などからくる痛みの可能性もあり、その場合には治療が必要です。
 
     
・口腔癌(舌癌を含む)  
 

口腔にも癌ができます。一番多いのは舌癌ですが、歯肉、頬粘膜、口蓋(上顎のこと)、口腔底(舌の裏側)など、どこでも発生します。
けれども、頻度としては肺癌や胃癌などに比べるとかなり低いものです。
発生の要因としては喫煙、口腔内不衛生があげられます。
舌痛症のところでも記載したとおり、癌細胞が広がっていく病変ですので、多くはしこりを形成します。中には潰瘍病変となるものもありますが、やはり潰瘍病変の周囲は硬くなります。
病気が進行するにつれて治療成績は不良となるばかりでなく、広範囲を切除するような手術を受けると、言葉や飲み込みが悪くなる機能障害を起こします。逆に早期癌の場合は機能障害もないか、軽度ですむ上に、治療成績も比較的良好です。
早期発見が重要なのは当然ですので、しこりを自覚するようでしたら早めに受診して下さい。

 
     
・ 扁桃肥大、アデノイド増殖症  
 

口を開けるとのどの奥の両脇に見えるのが口蓋扁桃です。
アデノイドは口蓋扁桃と同じくリンパ組織であり、鼻の突き当たりである上咽頭(鼻咽腔)にありますが直接見ることはできません。
両者とも同じリンパ組織であり、口蓋扁桃が大きいとアデノイドも大きい傾向にあります。
これらの肥大があると空気の通り道が狭くなってしまうため、口呼吸、いびき、睡眠時無呼吸などの呼吸障害を来します。
アデノイドに関しては、ちょうど中耳腔と交通する耳管の開口部付近にあるため、アデノイド増殖症があると中耳炎を起こしやすくなったり、滲出性中耳炎を合併しやすくなります。
こういったリンパ組織は小学校低学年を過ぎると退縮する(小さくなる)傾向がありますので、症状がそれほど強くなければ経過観察でもいいのですが、呼吸障害や他の合併症を生じるようであれば扁桃摘出術(症例によっては同時にアデノイド切除術)の適応になります。
近年これらの手術は入院の上、全身麻酔を行われます。術後は出血が問題となりますので、1週間程度の入院が必用になります。

 
     

・習慣性扁桃炎

 
 

口蓋扁桃の炎症である扁桃炎を繰り返すことにより、たびたび咽頭痛・発熱を生じます。明確な基準はありませんが、年に4回(3か月に1回)以上、扁桃炎による発熱を繰り返して学校や仕事を休まなければならないようであれば、扁桃摘出術の適応といえます。
扁桃炎が悪化すると周囲に炎症が及んだり(扁桃周囲炎)、膿が溜まったり(扁桃周囲膿瘍)します。
こうなると摂食が困難になりますし、喋ったりすることもおっくうになります。
扁桃炎の症状がでたら早めの受診をおすすめします。

 
     
・咽頭癌  
  咽頭癌には上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌があります。
このうち上咽頭癌はEBウイルスというウイルスが発癌に関与しており、他の癌に比べて若年者や女性に発症することがあります。放射線療法の適応になります。
中咽頭癌、下咽頭癌は喫煙や飲酒が発癌と関連します。とくに飲酒はアルコール度数の濃いものがよくありません。焼酎やウイスキーなどは水割りなど薄めて飲んだほうがいいでしょう。
これらの癌は治療成績が必ずしもよくありません。早期発見が重要なのは当然です。あまり過敏になりすぎる必用はありませんがとくに喫煙者やよく飲酒される方で、咽頭に違和感を自覚されるようでしたら検査をお受けになることをおすすめします。